やっぱり、無理。






「いやー、珍しいですね。男子学生限定のゼミですか?」




その片岡という高楼出版社の学芸雑誌『表現の刻』の担当記者は、俺の研究室に集まったメンバーを見まわしながら、ありえないという顔をした。


何だか、学芸雑誌には似合わねぇ、タイプだ。


すかさず、横から塩崎が、いえ女性もみえます、と口をはさんだ。


余計な事を言いやがって・・・。


俺はギロリと塩崎を睨むと。




「用事を頼んだ。外出中だ。気にしないで、取材を始めてくれ。」





そう言って、俺は片岡に向き直った。





先日、塩崎がケーキをもって自宅まで持ってきた企画は、この雑誌の俺に対するインタビュー記事に関してだった。

4年ほど前に発表した、18世紀の新古典主義に関する論文が注目を浴びたことにより、一気に英米文学研究者の間で俺は注目をされることになった。


俺を留学先からもどしたこの大学の理事長は、上機嫌で。


俺にいきなり准教授という役を与え、やたらと講演や研究会に俺をだすようになった。



おかげで収入は、かなり増えたが。


仕事に追いまわされることも増えた。


で、この取材も既に理事長が学園の宣伝と抱き合わせで、取材をOKしていて。


企画をもらった時点で断ろうと思ったにもかかわらず、断れない状況になっていた。



しかも、学園の宣伝もかねているから、講義風景だの、研究室の様子なども取材させろといわれ・・・面倒なこと極まりない。


その上、まりあまで出したら・・・絶対に、もっと面倒なことになるにきまってっから。



買い物と、銀行、郵便局への使いにまりあを出しておいたのだ。






「でもー、北島さんがいないと花がないじゃないですかー。写真撮っても北島さんいないんじゃ、つまらないですよー。」




と、塩崎が言い出した。




「あ?まりあは、誌面にださねぇよ。あいつ、こういうの嫌いなんだよ。」


「ええっー!?そんなぁ・・・っていうより、山岸先生が、北島さんを外に出したくないんじゃないですかー?」





俺はごねる塩崎を相手にせず片岡に学生達も予定がある、早く写真を撮ってくれと急かし撮影をさせた。






撮影もスムーズに終わり学生たちを返した後、俺のインタビューも難なく終わった。



早々に、高楼出版社のやつらを帰そうと、パソコンを広げ仕事を始めた。



そんな俺を興味深そうに、片岡が話しかけてきた。





「もう、17時まわりますけど、まだお仕事なんですか?」




さっきから思っていたが、こいつはズカズカと人の中に遠慮なく入りこもうとするような態度をする。


集者の塩崎とはちがって、あまり好ましいタイプの人間ではない。





「ああ。悪いが、取材が終わったならこれで引きあげてくれ。」




こういうタイプには、はっきりと意思表示することにしている。


そうしなければ、どんどん付け込んできて面倒なことになる。



俺のはっきりとした物言いに片岡は驚いたようだったが。


塩崎がすばやく俺の様子を察したようで、片岡と撮影をしたカメラマンを帰ろうと促した。


片岡は少し不服そうだったが、塩崎の方が先輩なのか仕方が無く手帳などを鞄にしまい出した。





その時。




「ただいま、郵便局が込んでて・・・ごめん、ジロー待った?・・・って、あれ?塩崎さん?」




タイミング悪く、まりあが帰って来た。