やっぱり、無理。





「はい、ごめんねー。ケーキじゃなくて、コンビニアイスでー。」


「いえ、アイスも大好きです。」



どこに行くんだろうと思っていたら。


車は汐留の方へ向かった。


ドンドン海の方へ抜けて。


大きなオフィスビルや倉庫も立ち並んでいるが、整地された空き地も多く。


途中、コンビニの前に大胆に車を停めると。


サッと降りて、素早く買い物をしてきた。


とても、機敏な人だ。


そして、それから少しまた車で走って。


海のまでやってきた。


とても整備されて、清潔で明るい感じだが。


流石に、ここまでくると人はいない。



そして。


彼女はようやく、車を停め、私にアイスを手渡した。


蓋をあけながら、彼女は思い出したように。




「ああ、ごめんね?私、自己紹介してなかったわね?・・・って、わかるかしら私の事・・・。」




いきなり言われても・・・。


何といっていいかわからない気持ちがそのまま顔に現れたのか・・・・そんな私にクスリ、と彼女は笑うと突然・・・歌いだした。


凄い声量で・・・しかも、滅茶苦茶上手い・・・で、バリバリの演歌でこぶしが回り・・・。


って、この人っ!?





「ええっ!?も、もしかしてっ!?」





驚愕する私に、彼女はにっこり笑うと。





「ふふっ・・・お化粧も・・つけまつげもしてないし。髪も結ってないし、着物も着てないから・・・ああ、つけぼくろもしていないしね?全然わからなかった?改めまして、美人演歌歌手の朝霧礼子(あさぎりあやこ)でーす。あー、色々ややこしいことは抜かして。本当に、あなたのパパとは、仕事上のユニット的な?関係で。ざっくばらんに正直なところを言うと・・・あなたの知っている、民川松男さんの恋人なのよ・・・ふふ、知ってるわよね?たまに彼のマンションで顔を合わせて、会釈くらいはしてたものね?」




驚きすぎて、しばらく声も出なかった。


私ににっこり笑いかける朝霧さんをただ見つめるだけで・・・。


だけど。


朝霧さんが、予想とは違って、とても感じのいい人だったから。


今まで、胸でもやもやしていた気持ちを一気に話そうと思った。