やっぱり、無理。




15歳の夏休みが終わる少し前、突然、ママからメールが入った。





『夏休みが終わるまでには、帰りなさい。』





確かに、夏休み中ということでジローのマンションに居候することになったのだけど。



でも。


だから、そうですか、って・・・素直に帰る気持ちにもならなくて。


ママからのメールに、返信もしないでそのまま新学期になった。






ジローは、夏休み中ジローの仕事の手伝いをしたからと言って、バイト代をくれた。


頼まれた下訳はとんでもないものが多く、私には力不足・・・というより、経験不足で・・・あまり役には立たなかったと思うのだが。


その代り、原稿の清書や、郵便類の整理や送付、スケジュール管理など雑用をこなした。


家の中のことも、食事以外はジローは全くの無頓着ぶりだったから。


かなり荒れていて、私には耐えられない状態だったので、掃除や洗濯などはマメにした。


料理もした・・・朝食以外は。


かなり、快適になったと思う。


だからと言って特に感謝されるでもなく、ジローはお礼のひとつも言ってくれなかったけれど。


でも、ちょくちょく出かけたついでに何か買ってくれたり、食事に連れて行ってくれたりしたから・・・ジローの言うところの雰囲気で感謝しているのをわかれ、という事なのだろうか。


元々、薫さんが余るほどお小遣いはくれていて貯金もあったし、ジローがくれたバイト代も高校生にしてはかなりの額だったから、新学期が始まっても特に困ることなく学校へ通うことができた。






そして。



新学期が始まってあっという間に一週間が過ぎた、ある日。



下校しようと校門を出たところで。




「ちょっと、いい?話があるんだけど。」




いきなり、声をかけられた。


声がした方を振り向いて、思わず、とうとう来た、と思った。


ゴクリと唾をのみ込んで私は頷くと、その人の方へ行きかけたのだけれど。




「お、おいっ。まりあっ。知らない人についていくなよっ。」




帰りにケーキを食べに行こうと、一緒に校門を出た昌が焦った声を出した。


今日ジローは千葉で学会があり夜は遅くなるから、昌の誘いを受けたのだ。


夏休みの件も説明しようと思って・・・。



昌は告ってはきたが、付き合えなくても友達ではいたいと言ってくれた。


ビビリだけど、いいヤツで。


結構隠している私の性格をなぜか理解していたりするから、一緒にいて気が楽なヤツ。


だから家の事は話せないけれど、ジローの事はちゃんと説明しようと思ったのだ。




「あら、まりあちゃんの、ボーイフレンド?」




こうやって話すのは初めてだけど、その人は可愛いいと思っていた印象とはちがって、少し蓮っ葉な感じがした。




「ボーイフレンドって、いうと意味深に取れる場合もあるので・・・ただの友達です。」




英語でBFというと、彼、という意味にもとれるので、はっきりと位置関係を示した。


その途端、昌は頬を膨らませた。





「まりあっ、それは、今の状況で・・・もしかしたら、将来、発展する――「それはない。はっきり断言できる。それにこの間の、やたら声も、態度も、体も大きい男が私の恋人だから。昌との関係は、友達以上に発展する可能性は、全くないと言い切れるから。」





もう少し、ケーキをたべながらオブラートにくるんで話そうと思ったのだけれど。


ジローの物言いが、うつったのか。


つい、身も蓋もない・・・単刀直入な会話になってしまった。