そして、ジローは私の長い髪をそっと手で梳くと。
「安心しろ、俺はとっくに薫さんからお前に寝返っている。今は、お前の味方だ。」
と、調子のいい事を言った。
調子がいいけれど、私にとっては凄く欲しかった言葉・・・。
だけど、唇をキッ、と結び直し。
ジローを睨みつけるように、首を横にふった。
「そんなわけない。」
大人の言葉は、いつだってその場しのぎだ。
薫さんは私の事を、最愛の娘と言ってくれるけれど。
それだって、その場しのぎ。
ただ、私が懐くようにそう言っているだけだ。
どこにも、誰にも私が娘だとは知られていないし。
証拠もない・・・。
ママだって、私に謝るのは、その場しのぎ。
自分が薫さんと離れたくないから、薫さんの都合いい関係を作って。
薫さんを優先して、私の存在はないものとする現状。
ジローだって、きっと――
「あ?何が、そんなわけない、なんだよ?何で俺がお前の味方じゃないって、言いきれるんだ?」
睨む私に、キレ気味でジローが私を睨んできた。
本気で怒っているようだ。
だけど、私だって負けていられない。
もう、大人のその場しのぎには、うんざりだ。
「だって・・・ジローは、薫さんからバイト料もらってるんだし。薫さんに雇われてるから、薫さんの味方じゃなくて、私の味方をする意味がないじゃない。大人なんて、損得で物事を決めるでしょう?」
本当に、うんざりとした声が出た。
ジローにはバイトという枠を超えて面倒をみてもらったと、思っている。
決して損得で、私の家庭教師をやってくれたんじゃないとわかっていた。
だけど・・・それだって、薫さんありきのはず――
うんざりとした声をだしたのは、私のはずなのに。
そう考えると、とても・・・悲しくなった。
何故なら、今の言葉で、きっと。
ジローが怒って・・・これで、家庭教師も、終わりになるだろうと・・・そう思ったから。
そう思って、愕然とした。
今の私の生活にはジローが・・・いや、ジローありきで生活する毎日になっていたことに今更ながら気が付き。
ジローに依存している自分に気が付き。
ジローがいない生活になったら、私はどうしたらいいんだろうと・・・怖くなった―――
だけど、てっきり怒鳴ると思っていたジローの声は、静かなもので。
「意味、か・・・意味なら、あるぞ?」
そう言って、ニヤリとジローは嗤うと。
私の頭を、いきなり引き寄せ。
むしゃぶりつくように、唇をかさねてきた。
まさか。
ファーストキスが。
とんでもなく容赦のない、生々しい。
ディープキスだったなんて・・・。
そして、そのままあっという間に担がれ、ジローのベッドに連れていかれて。
一気に。
初体験まで済ませてしまったなんて・・・・。
ジローの『意味』は、いきなりで。
とんでもないもの、だった―――

