時間は八時を過ぎたけど、彼女は教室に入ってこなかった。
校舎の陰で弾けそうなブラウンのショートヘアを風に任せながら、静かにたたずんでいた君を見つけた時、
僕は何を思っただろう。
夢中で走って、また見えなくなった君を探して、
追いかけて……。
「ハァ、ハァ……どうした?」
振り返った君が、抑えていた僕の気持ちに気づいているかのように優しく笑う。
僕はまた、君の行動に心狂わせられるのか。
「あのね……」
肩を引き寄せ、僕は少し強引に開きかけた唇をふさいだ。
君が髪を切った理由が、
一瞬でも僕の為だと、思いたかったから。
*おわり*

