大学病院というところにはどうも慣れない。
さっき見かけた少年も迷っていたらしい、
泣きながら母親を探していた。
「お母さあああんっ、うわぁぁんッッ、グスッどこぉ?!」
うるさかったから一緒に探してあげたけど、見つからず、結局このざまだ。
「お母さん、いないよぉ?」

「大丈夫、お姉ちゃんが探してあげるから静かにしてて!」

全く、親はしっかり教育しているのだろうか、うるさいったりゃありゃしない、
新手のイジメだろうか。
まあ私にはそんな軽い辛さなんてどうってことない。
ついさっき最後の人生のアシデマトイとなるものを捨ててきた。
だからこそこの少年が母親を探しているのかわからない。
いつかは必要なくなるときが
来る筈なのだから。
親というのは学校にいくためのお金さえ
出してくれればあとは何も必要ない。
料理だって、洗濯だって、
自分でやればできる。
さすがにこの少年にそんなキツイ言葉は
言えないが、それが現実なのは
確かなのだ。

「あ、タクちゃんッッ!!」
「え?あ!お母さんッッッ!!!!!!!!」

大声で叫んだ少年は、
目当ての玩具でも見つかったかのごとく
速く母親のもとへと駆けて行った。

「よかったぁ、無事で……迷子になったらダメでしょう!」
「……ごめんなさあい」

少年はこちらをチラリと見ると

「あのお姉ちゃんが一緒に探してくれたんだよお!すごく優しいお姉ちゃんなんだよ!」

「えっ、ちょっとそんな大袈裟な、」
「まあ!そうだったんですか。ありがとうございました、今度お礼はゆっくりさせて下さい!」

ほとんど被るようにして母親の声が私のセリフの後に発せられた。
でも私にはそのセリフは迷惑以外の何者でもない。
せっかく無駄なものを全てそぎ落とした人生が始まりだしたというのに。。

「遠慮しときます。そこまで大層なことはしていないですから。。」

「あ、お姉さん待ってッッッ」

逃げ出した、その場から一目散に。
これ以上邪魔者を増やすわけにはいかない。
あの子と母親には悪いが恩義など
受けるつもりなんかない。

そりゃ、気持ちだけ受け取っとくが。。