「いいから、手」

「で…でも…」

「手」

成宮君の目は有無を言わせない目だった。

「お言葉に甘えて…」

あたしは遠慮がちに両手を差し出した。

「うわ、血だらけ…本当にごめんな」

「ううん、このボールが飛んで来なかったら…成宮君と仲良くなれなかったから…」

あたしはパンクして萎んだサッカーボールを指差した。

「松原さん…そんな事、言ったら本気になっちゃうよ?俺」

「え?」

「……なんちゃってね。ほら、松原さん、痛いでしょ?」

「うん、お願いします…」

成宮君はあたしの手に消毒液を塗った。

「痛い?」

「全然」

成宮君の手…大きいな。
温かくて…なんか安心する。

「はい、終わり」

「…ありがとう…」

「今日は松原さんと話せて楽しかったよ」

「あたしも…話が分かる人がいてくれ…とっても嬉しかったよ…」

「じゃあね…」

成宮君はパンクしたサッカーボールを持ってドアに手を掛けた。

…行かないで。
成宮君とまた話したい。

「「あの!!」」

あたしと成宮君は同時に声を放った。

「あ…松原さんから話していいよ?」

「ありがとう…あのね、迷惑だと思うけど暇な時にまた写真クラブの部室に来てくれない?」

あぁ…やっぱり。
成宮君は綺麗な顔なのに目を見開き、大口を開けてた。

「俺も…松原さんとまた話したいと思ってた。暇な時じゃなくて毎日、来ていい?」

「うん、約束ね」

「約束」

果てしなき碧空はまるであたし達を見てる様に真っ青だった。