誰もいない神社



僕はひとしきり喚いた


喚いた後に、ナナちゃん楽しかった思い出を思い出す


そもそも、僕はどうしてナナちゃんを好きになったんだろう…


僕は街を見下ろしながら考える


…思い出せない


いや…意識した時はあったはずだ…


多分、小さな時…こんな寒い時期だった


ナナちゃんと小学校から帰る時、僕は風邪気味で鼻をすすっていた




ーーーーー

「ジュル…ズズ!」


「珍しいわね、アンタが風邪引くなんてさ」


「うん…ズズ!」


僕はマスクをしてナナちゃんと下校の最中だった


「ヘクシッ!!」


僕はくしゃみをしてしまう


「寒い?」


「うん…ちょっと…」


すると、ナナちゃんは首に巻いていたマフラーを外す


「ほら、これ長いからさ…一緒にしよ?」


「え…でも…」


「いーから!私も寒いのよ!2人ですればあったかいでしょ?」


ナナちゃんは有無を言わさずマフラーを半分僕の首に巻いてくれる


「風邪うつっちゃうよ…!」


「大丈夫よ!アンタマスクしてるし」


「あ…ありがと…」


ナナちゃんとの半分このマフラー


「ほら、もっとくっついて歩きなさいよ?じゃないと外れちゃうでしょ?」


「え…あ…でも…顔がくっついちゃ…」


「いーの!病人は黙って言う事聞きなさいっての!」


顔が…ホッペとホッペがくっつく


ナナちゃんの柔らかいホッペ


「へへ…あったかいでしょ?」


「ズズ…うん…」


ーーーーーーーー




あの時


僕は凄くドキドキしたんだ


女の子と密着してるからじゃない


ナナちゃんの思いやりが本当に嬉しかった


あの時


胸が締め付けられる感じがしたんだ


苦しい程に…


あんな思いは後にも先にも無かった


あれからか…


ナナちゃんを意識する様になったのは…






街がキラキラと輝く


寒空のせいか、やたらと綺麗に見える




本当に帰ってしまったのか…


「出てきてよ…お願いだよ…好きなんだよ…ナナちゃん…!」




諦め掛けていたその時








ージャリー


「!?」


僕は音のした方向に顔を向ける


だけど、誰もいない


「…猫…かな…?」


この辺りは野良猫が多い


神社の軒下を寝床にしていてもおかしくない





だけど、その猫は…不思議な鳴き方をした




「…ん…とうに?」


「え?」





「本当に…私の事…好きなの?」


木陰から、半身を出す人影



「ほ…本当に…?」


僕は目を擦り、声がした方向に目を向ける



俯き、木陰から身を乗り出したのは…




ナナちゃんだった




「な……ナナちゃん!!!」


僕は駆け寄ろうとする


「ダメ!!!」


ナナちゃんが叫ぶ


「本当に…私の事…」




「好きだ!!!」


「…!!」


僕の叫びにビクリとするナナちゃん


「好きだ好きだ好きだ!!……世界で一番大好きなんだ!!……だから…帰らないでよ…お願いだよ!!僕と一緒に居てよ!!」







「れ…レン……レンジィィィ!!」


ナナちゃんは飛び出してきて、僕の胸に飛び込んで来た!!


それを受け止める僕


「うわっと!!」


「本当に、本当だよね!?私が好きなんだよね…?マイコちゃんじゃないんだよね?」


胸に顔を埋め、何度も聞いてくるナナちゃん


「うん…僕が好きなのはナナちゃんだよ!」


「うぐ…!グスッ!!ヒグゥ…!!」


僕にしがみつき、すすり泣くナナちゃん


「…ゴメンね…僕…マイコちゃんのペースに押されちゃって…あんな事になっちゃった…ゴメンね…!」


「ううん……レンジは…悪くないよ…」


「……ありがとう…」


「グス…でも…浮気者…!!」


「え?浮気になるの?」


「だって、私の事好きなくせに他の女の子と抱き合うなんてさ…」


「…ゴメンね…」


僕はナナちゃんを抱き締める


「ナナちゃん?顔上げて?」


その問いに、ゆっくりと顔を上げるナナちゃん


目は真っ赤で涙でベッチョベチョ


おまけに鼻水を垂らしまくってる


「ヒドい顔♪」


「だ、誰のせいよ!!バカ!!アホ!…グス…!」


僕はナナちゃんの顔をハンカチでゆっくりと拭く



「んに…えへへ…♪」


そして、ティッシュを鼻に当てる


「んむ?」


「はい、ゴーカイに!チーンと一発!!」


「…チィィィィィィン!!ズビィーーーーー!!」


本当にお構い無しだな


そして、ひとまず落ち着きを取り戻したナナちゃんと僕はベンチに座る


「そっか…そうだったのね…」


事の顛末を話した僕


「うん…だからさ…あの抱き合ってたのも無理矢理だったんだ」


「そか…」


「でも、本当に帰ろうとしたの?」


その問いにナナちゃんは俯きながら答える


「う……うん…だってさ…初恋……失恋したと思ったし…」


「帰っちゃ…イヤだよ…?」


「…うん…帰らない…あ…」


「え?何?」


「さっきさ、アンタが私に好きだって言ったのに返事してなかったわよね?」


「え…?今更?」


「こーいうのってさ、形も大事じゃない?ほら!立ちなさいよ」


僕らは立ち上がり、向かい合う


そして、改めて僕らは


「ナナちゃん、ずっと好きでした…付き合ってください…!」


その言葉に、モジモジと…そして顔を…耳まで真っ赤にするナナちゃん


自分から提案してきたのに…



「…は…はい…わ…私も……レンジ…君の事が…大好きでした…」


ナナちゃん、顔から火が吹き出そうだ


緊張してるのか、僕の名前に君付けだ


「ふふ!ふふっ…!!不束者ですが!!よろしくお願いしまっす!!」


なんか、結婚するみたいだな…


「うん…じゃあこれ…」


僕はそれに応えるべく、さっきベンチにあった指輪を取り出す


僕は片膝をついて、ナナちゃんの手を取り、ゆっくりと薬指に指輪をはめる


「ーーーー!!」


「ど…どうしたの?」


「あ、アンタ…それ自然にやってんの?」


「え、あ…うん」


「き…キザね…」


「そ…そう?」


「…まぁ…そんなレンジも…好き…かな♪」


ナナちゃんはニッコリと笑う


そして、僕は立ち上がりナナちゃんを抱き寄せる


「レレレ!!レンジ…?」


「ダメ…かな?恋人同士だしさ…」


「…ううん……えへへ…あったかい…♪」


そして…僕はナナちゃんを見つめる


「……!!」


ナナちゃんも感じ取る




ゆっくりと…瞳を閉じるナナちゃん…




そして、身長差があるのを気にしてか、背伸びをするナナちゃん



ゆっくりと…顔を近づける僕


「ん……!」


ナナちゃんの吐息が僕の顔にかかる


ナナちゃんの身体はカチコチに固まって動かない


だけど、いつしかナナちゃんは僕の背中に手を回してきていた


「ん……ん……!」


ナナちゃんの手に力が入る


多分、数分の出来事


だけど、僕は何時間にも感じた




時間が止まってる感覚に陥る




そして、ようやく唇を離す…


「……ふは…!!」


ナナちゃんが溜息を漏らす


「…キスって……こんなにすごいんだ…」


「…うん…」


「つかさ、ファーストキスって舌入れんの?」


「え?ナナちゃんから入れてきたじゃんよ?」


「いや!!レンジだし!!」


どっちでもいいや……そう思える程に甘美な時間


「ねねね!も…もう一回…しよ?」


「セカンドキスだね♪」


「今度は私から…ほら…屈みなさいよ!…ん…」


何度も、何度も唇を重ねる僕達…


まるで、お互いの唇を貪るみたいに…




そして…僕達はひとまずまたベンチに座る


「えへへ…♪キスしちゃったね…」


「うん…あっと…」


マイコちゃんの薬がまだ効いてるみたいで僕は少しよろける


「ちょっと…ほら…少し横になりなさいよ?」


薬を盛られた事は話してある


その事を知ってるナナちゃんは、僕の頭を膝に乗っけてくれる


「どう?初恋の人とキスして、膝枕もしてもらえて…贅沢じゃない?」


僕の顔を覗き込むナナちゃん


「…うん…なんか…天国みたいかな…♪」


キラキラと光る星をバックに笑うナナちゃんは…



本当に、可愛かった…






だけど、この時僕らはまだ知らなかった



この後


長い長い、夜になる事が…