ゆっくりと家を目指す


買い物袋のワシャワシャとした音が鳴り響く


既に夕方…陽が落ちかけて、カナカナとヒグラシが優しく合唱をする


今は昼間と比べてかなり涼しくなってきた


やんわりと吹く風が凄く気持ち良い…


何だか気分が良いので散歩がてら遠回りをする


「〜♪〜♪」


小さく鼻歌を歌いながら僕は歩く


いつの間にか僕は川沿いを歩いていた


「…あれ…?」


僕の目にある建物が飛び込んでくる


「…なんでかな…無意識に来ちゃったよ…」


川沿いにある、幼稚園みたいな建物…


[たいようの家]


ナナちゃんが育った施設だ


ナナちゃんが生きてた頃は良く来てたな…




まぁ…もう用事は無いよな…


僕は足早にそこを立ち去ろうと歩みを進める


すると、突然夏とは思えない冷たい風が僕の体を貫く


背中がゾクリとする


そして気がつくと前方に誰かいる…


小さな女の子だ…白いワンピースを着て、髪の毛は肩まで伸ばしてる…


…幽霊みたいな感じがして…ちょっと怖い…


彼女もこちらに歩いてくる


そして、お互いにすれ違う


別に知り合いじゃない


だけど…なんだか凄く気になって振り返ってみる


すると彼女も振り返っていた


気まずくなって慌てて前を向く


何だろう…こんな感覚初めてだ…


首をかしげてると後ろから可愛らしい声がする


「見つけた」


…?


「見つけた…やっと見つけた…やっと…!」


後ろを振り向くと…こちらに走ってくる女の子…!


いや…!突進と言う言葉が正しい…!


「見つけたああああ!」


物凄い形相で叫びながら突進してくる彼女


「うわっ!」


僕は訳が分からなくて…それに凄く恐怖を感じて慌てて逃げ出す


「な…!何で逃げんのよ!待ちなさいよコルァアアアア!」


イヤだ!なんで僕が追われなきゃいけないんだ!


僕は全速力でダッシュする


「止まりなさいよおぉお!ムキーイイ!」


何か変な声を上げてる…


しかし、あの女の子は背が低い


対する僕は身長が173はある


脚のリーチはこちらが有利だし、徒競走なら少し自信はある


次第に彼女との距離が離れる


「ち…なさいよ…!てぇぇ!」


声も段々と遠くなってゆく…


そして、完全に彼女を撒いた…


「はぁ!はぁ!はぁ!ぜぇ…ぜぇ!…んぐ…!」


こんなに全力で走ったのは生まれて初めてかもしれない…


でも、休んでる間は無い…早く彼女に見つからないうちに帰らないと…!


僕は急いで家に向かう


そして、家に入る


走ったせいで喉がカラカラで張り付いた感覚だ


冷蔵庫を開けて麦茶をカブ飲みする


「ぷ…はぁ…!」


冷えた麦茶が体の中に染み渡る様だ


「な…なんだったんだ…?」


僕は女の子に追いかけられる覚えは無い


恨みを買う様な事なんかした事無いし…


大体、女の子となんか付き合った事も無いしな…


「まあ…暑いしな…頭がおかしい人がいても…おかしくないか…」


僕は無理矢理結論づけて呟く




「誰が頭がおかしいって?」





……う…後ろから…声…?


いや…そんなはず…


「後ろ…向きなさいよ…」


ま…また声が…!


僕はゆっくりと振り向く…でも、誰もいない…


「あーもうちょい下向いてみ?」


言われるままに下に視線を落とす


すると…さっきの女の子が!


「…!!」


僕は驚きすぎて声が出ない


「アンタ…背ぇ伸びたわねぇ…」


彼女は僕を見上げながら何故か僕の身長を感心する


そして僕は腰が抜けてしまってペチャンと崩れてしまう


「な…な!何で…!撒いたのに!?」


「フフン…あれで私を撒いたとでも?」


崩れ落ちた僕を見下ろして威張る彼女


「どど…!どうして!家に…入って来て…る…の?」


「別に、アンタの家分かってるしねぇ…途中から先回りして、隠れててアンタが帰って来たから真後ろにくっついて入っただけよ」


「な…ウチを…知ってる…?」


な…何でウチを知ってるんだ…?


すると彼女は呆れた様子で


「アンタ…まさか…まだ分かんない訳?」


彼女は僕の顔にズズイっと自分の顔を寄せる


「な…わ…分からないよ!」


僕が半ば絶叫気味で、叫ぶと彼女は左手を見せてくる


「…?な…何?」


「良く見なさいよ!」


彼女の左手をよく見る


すると彼女の薬指にはキラリと光る指輪


ゆび…指輪…


こ…この指輪は!!!


「な…ナナちゃんの…!!」


「ようやく分かったかしら?」


「き…君が泥棒した…のか…?」


「は?」


彼女は口をアングリさせる


「か…返してよ!僕の宝物なんだ!」


「ちょ…あ…アンタ…まだ分かんない訳?」


「分かるよ…!君が盗んだんだろ!返してよ!」


「やーよ!大体、そんなヘッピリ腰で言われたって迫力もクソもないしね♪」


な…何おう…!


「それに……これは私の指輪なのよ?」


「な…え…?」


盗人猛々しい発言をする彼女


しかし…彼女の口からはとんでもない事が飛び出す


「アンタが…レンジが私にくれたんだもん…」


「え?」


僕の名前を…知ってる?


「だから……私が、返してもらったのよ…?」


あり得ない言葉が耳を貫く


「な…ちょ…!冗談は…」


「冗談じゃないわよ?」


「君が…君がナナちゃんだって言うのか…!?」


「そう…私は桜川ナナよ…アンタの幼馴染の…」


「う…嘘だ…な…ナナちゃんは…死んだはず…」


しかし、彼女は冷静に答える


「うん…死んだわね」


「…?…!?…?」


だ…ダメだ…頭がパニック状態に陥る


「私はね…生き返ったのよ」


生き返った…あり得ない言葉が僕を襲う


「生き返った?」


「そう!私はリバース!つまり復活したってわけよ!」


何だかよく分からない変なポーズを取る…ナナちゃんと名乗る彼女


いや…そんな…生き返るなんて…


僕はナナちゃんのお骨を拾ったのを覚えてる


つまり、ナナちゃんは火葬されたんだ…


今でもはっきり覚えてる…


「そ…そんな…え…?ちょ…!幽霊?いや…ゾンビ?」


「何でこんな可愛い幽霊とかゾンビがいんのよ!!」


自分で自分を可愛いって…でも、あり得ない事実に僕は驚きを隠せない


「そんな…お盆にはお線香あげてたのに…命日だって!」


「あのね…」


彼女はしゃがみ、そして僕の手を握る


「え…」


暖かい…彼女の手からは正に、人間そのものの体温を感じる


「どう?ちょっとは信じれる?」


「……」


僕は何故だか無言で頷いてしまった


しかし、言葉が出ない


すると彼女は業を煮やしたのか


「あーもう!めんどくさいわね!良い加減納得しなさいよ!アンタ男の子でしょ!」


「あ…うん…!!」


「フフン…わかればよろしい!」


満足気な彼女…いや、ナナちゃんと呼ぶべきか


「つーか暑いわ…アンタのせいで全速力で走ったし…あ、麦茶ちょーだい♪」


ナナちゃんは麦茶をゴクゴクとカブ飲みする


「はぁ♪美味しー!生き返ったわ!…いや、既に生き返ってるわね!アッハハ♪」


ケラケラと笑うナナちゃん


「ま…まぁナナちゃんって言うのは…一応理解したんだけどさ…ど…どうして生き返ったの?」


「はぁ?アンタ忘れたの?約束したじゃんよ…またお祭り行くって…一緒に」


「え…あ…それだけで?」


「そーよ!義理堅いのよ私は」


そしてナナちゃんはまた麦茶を飲む


「いや…でも…ナナちゃん…また施設に住むの?」


そう…ナナちゃんには親はいない


つまり、家が無いんだ


一体どうするんだ?


「施設は行かないわよ?」


「え…?」


「おっ世話になります♪」


ペコリとお辞儀をするナナちゃん


「お世話に…?お世話?…え…えぇえええええ!?」


つまり、…この家に…住むつもりか!?


「ダメ?」


眉毛を8の字にするナナちゃん


なんだか今にも泣きそうだ


「私、親いないし、頼れるの…レンジしかいないの…レンジがダメなら野宿するしかないの…クスン」


「いや!ダメじゃないよ!うんダメじゃない!」


女の子を野宿させるわけにはいかない…それもあってか全力で了解してしまう僕


「じゃあ決まりね♪よろしく〜!」


にぱっと笑うナナちゃん…切り替えが早すぎる…


「つーか汗もかいたし、シャワー入っていい?」


「あ…うん…どうぞ…タイマーでもう出来てるはずだから…」


「よっしゃー!久しぶりのお風呂だわ!」


もはやナナちゃんのペースだった


「レンジも汗すごいねぇ…めんどくさいから一緒に入る?」


「は?うえ?…いや!ダメだよ!」


とんでもない事を言うナナちゃん


「冗談よ♪まぁ昔は一緒に入ったけどね…さすがに今は恥じらいがあるわ」


じ、冗談か…


確かに昔は一緒に入ったよな…まぁホント小さい時だけど…


そして、ナナちゃんがシャワーに入る


リビングに取り残される僕


しかし…生き返る事なんてあるのか?


僕があれこれて考えてるとナナちゃんがシャワーから上がってくる


しかし…何故かバスタオル姿


目のやり場に困ってしまう…


「いや…私さ…良く考えたら着替え持ってないんだよね…良かったらTシャツと短パンとか貸してくれない?」


「あ…うん!良いよ!えと…その…し…下着は?」


「今日はとりあえず今日着てるので我慢するわ…明日諸々買いに行くし」


そして、急いで洗濯済みの着替えを出す


ナナちゃんはTシャツを広げると


「デカ!アンタ身長いくつ?」


「んと…173だよ…ナナちゃんは?」


「143よ」


143…僕と30センチ違うじゃないか…


「アンタ今チビとか思ったでしょ?」


「いや…ナナちゃん小学校から背はそんなに大きくなかったし…」


「ま、私は可愛いからね〜小さいのも許されちゃうわ!」


ポジティブだな…


確かにナナちゃんは背が低い…


それに、なんと言うか…胸が…


とても残念というか…


貧乳…いや、それ以下かも…


「何ジロジロ見てんのよ?」


「あ…いや…ごめん…」


でも、顔はすっごく可愛いんだ…


それに、改めて見ると確かにナナちゃんの面影がある…


というか…死んでからも成長するんだな…


「つーか後ろ向いててよ…着替えるし」


「.あ…あ!ごめん!」


僕は慌てて後ろを向く


「〜♪〜♪」


モゾモゾと着替える音がする…


つまり、今はナナちゃんは裸…


う…振り向きたい…


「振り向いたらビンタよ?」


「…!」


こ…こちらの頭の中が読めるのか?


「はーい!着替えたわよ!」


振り向くと、ブカブカのTシャツに短パン姿のナナちゃん


「つーかまじでデカイわ…まぁ良いか!」


襟がスカスカだからか、胸の先っちょが見えそうで困る…


そして、僕もシャワーを浴びる


湯船に浸かって再度考える…


でも、考えても、ラチがあかない…


まぁ…考えても仕方無いか…


僕は湯船から上がって、リビングに戻る…