新学期


登校初日


僕らは2人で学校に向かう


「……」


ナナちゃんは朝から口数が少ない


「どうしたの?もしかして緊張?」


「あ…当たり前でしょ!?学校なんて死んでから行ってないし、中学校なんて初めてなんだし!」


珍しいな…ナナちゃんが緊張なんて


「まぁまぁ…昨日までは言ってたじゃんよ…私は可愛いから人気沸騰ねー!とか」


その勢いはどこへやら


「い…いや!ほら!可愛いが故にイジメとかあったらどーすんのよ?」


「アッハハハ♪それは無いよ!」


「な…何よ…可愛い幼馴染がイジメにあったらどーすんのよ!」


「ウチのクラスはイジメをする人はいないよ…大丈夫だよ!」


そう、僕のクラスは皆仲良しなんだ


女子も男子も


結構珍しいんじゃないかな?


「そ…そう…うー!でも、緊張するわ!」


カチンコチンになって歩くナナちゃん


ま…すぐに慣れるだろうけど


−教室−


「おはよう!夏休みは楽しんだかー?」


朝のホームルーム


木村先生が皆に声をかける


「さて、いきなりだが転校生の紹介だ…桜川、入って来い」


「あ…はい…!」


ナナちゃんが入り口から入ってきて、木村先生の隣に立つ


「今日からウチのクラスの一員になった桜川ナナ…皆、仲良くな!ほら、自己紹介…!」


木村先生がナナちゃんの背中を押す


「あ…えっと…桜川ナナです…よろしくお願いします」


ペコリとお辞儀をするナナちゃん


クラスの皆が少しざわつく


「転校生かー」


「やだー可愛いー!」


女子も男子も騒ぎ始める


そして、始業式が終わり当然の様にナナちゃんには女子が集まりだす


ちなみにナナちゃんの席は僕の隣だ


「ねーねー!どこから来たの?」


「超可愛くない?なんかアイドルみたーい!」


黄色い声がナナちゃん…そして隣に座る僕を取り囲む


「あ…えと…私は隣の町から…」


とりあえず、隣町から引越しをしてきた事になってるからな…


ナナちゃんは上手く話を合わせてるみたいだ


というか、女子に囲まれていささか居心地が悪い…


とりあえずトイレ行こ


僕は席を立つ


「…?レンジ、どこ行くの?」


「え?トイレだけど」


そのやりとりに、すぐに女子が飛び付く


「ちょっと…いきなり坂崎君を下の名前で呼び捨てとか…坂崎君手ぇ早すぎ!」


「え?2人は何?どんな関係なの?」


「あー…僕らは幼馴染だから…」


まぁこの辺りは隠す必要は無いよな


「へー!幼馴染って事は2人は近くに住んでたの?」


女子の内の1人が質問する


「あ…うん…昔は…」


ナナちゃんも答える


「え、じゃ、今も近く?」


「うん、えと…近くじゃなくって同じ家だよ」


女子達一堂が氷の様に固まる


な、何故だ…!


何故そんなにサラリと同居してる事を…


いや、事実なんだけど…


「あははは!やだー桜川さんって冗談上手いのね♪」


「ううん…冗談じゃないよ?私は孤児だからレンジのお父さんに引き取ってもらってるの」


「え…ウソー!」


「そーいえば朝から2人で登校してたよね!?」


女子達が一斉に騒ぎ出す


「え、待って!坂崎君のお父さんってさ、単身赴任だったわよね?」


クラスの皆は僕の家の事情を知ってる


もちろん母さんがいない事も


「マジ!!?じゃー2人暮らしじゃん!」


「やだーフケツゥ!!」


僕はコッソリとトイレに向かう


が…


「ちょっと!何張本人が逃げようとしてんのよ!」


女子達に襟首を掴まれてしまった


「毎日一緒に寝てるとか?」


「お風呂も入ってんじゃないのー?」


だ…ダメだ…


担任の影響もあってか、女子達の方が下ネタ好きだ…


「どうなの?桜川さん?」


「うん、ちっちゃい時は一緒にお風呂に入ったよ?」


「やだー裸の付き合い済んでるじゃん!」


「い、いや…小学校上がる前だから…」


「責任とんなさいよ〜♪」


黄色い声が僕らを包む…


結局、男子も混じってもの凄いいじられるハメに…




そして、放課後


新学期というのもあり、部活のメンバーは1度部室で顔を合わせる事に


「おーいらっしゃーい♪同棲2人組♪」


「部長までやめて下さいよ…朝からいじられっぱなしですよ…」


「まーまー人の噂はなんとやらよ?皆すぐに飽きるわよ?」


部長はそう言ってるけど…


「ナナちゃん…あんなバカ正直に答えなくても…」


「だってホントの事じゃん」


ナナちゃんはまったく悪気が無い様子だ


「そそ!ウソついた方が後で面倒よ?」


喜多見先輩もナナちゃんの味方になる


「まぁ…そうですけど…」


はぁ…これからどうなるんだろう…


そして、部活は顔合わせだけで終わり、僕らは早めに帰宅する


「どうだった?学校」


「うーん…クラスの皆もいい人ばっかりだし良かったわ♪」


「…なんか僕は疲れたよ」


「…からかわれたから?」


ナナちゃんが聞いてくる


ズバリその通りだ


「そーいや、責任とかって言ってたわよね?あの…背が高めの女の子」


「あー瀬川さんだよ…あの女の子は」


僕らを1番からかった女の子の話題になる


ま、1番からかったとは言え、悪気は無いし、悪い女の子じゃない


「責任か…確かにアンタ、私の裸を見たわけよね?」


「い…いや、それは小さい時じゃんよ…」


「小さいっつったって、よくよく考えたらオッパイも下半身も見られてるわけだし」


「んな無茶な…」


「ふふーん!責任とんなさいよ?」


ナナちゃんはカバンを振り回しながら僕に責任を取れと言う


まぁ冗談だろうけど…


たまには僕も反撃しないと…


「今も裸を見せてくれるんなら責任取るけど?」


「ふざけんなバカ!」


カバンでぶん殴ってくるナナちゃん


「あ、そーだ!買い食いしよーよ!」


思い出した様に叫ぶナナちゃん


少し先には小さな駄菓子屋さんがある


「はいはい…でも夕飯前だから少しね?」


僕らは駄菓子屋さんに寄って小さなチョコを買う


「へへー♪」


ナナちゃんは嬉しそうにチョコを頬張る


「むひゃひもひゃ、ほーひゃっへはひゃひひゃへはんはほほはひはひははほへ?」


「ナナちゃん…飲み込んでからだよ?」


「…んぐ…!昔もさ、こーやって駄菓子屋でお菓子をアンタと食べたわよね?」


「うん…まぁ小学校の時は買い食い禁止だったから一旦帰ってからだったけど」


「そうそう!まぁ私は施設だったけど、ランドセルぶん投げて走ってきたわ」


「ハハハ…♪僕もそうだったな…」


僕らは昔を懐かしむ


「私さー…こーやって買い食いしたりすんの地味に嬉しいのよね〜」


「…食いしん坊だな…ナナちゃんは…」


「アンタね、食べ物で喜んでるんじゃないわよ私は」


ナナちゃんが食べ終わったチョコの袋を丸めながら呟く


「アンタとこーやって昔みたいに出来る事を喜んでんの!」


「そか…まぁ僕も嬉しいよ♪」


9月、まだ夏真っ盛りの高い空を見上げながら僕は答える


これからも、仲良くしていけたらなぁ…


そんな事を考えながら僕はナナちゃんと帰宅する…