夏休みも中盤になった頃、私はレンジ君を誘い出す


まぁ部活なんだけどね


部室でレンジ君と対面して机に座る


「今日はどうしたのマイコちゃん?急に…」


「あーいや、私達2年だけでも文化祭に向けて進めたいなぁと思って」


「そっか…偉いね…そうだよね…!来年は僕らが最上級生だし…!」


レンジ君は私の意見に同意してくれる


まぁこの日を選んだのには訳がある


まずはノブアキ君が家族旅行でいない


そして、ナナちゃんは部長達先輩と交流を深める為に3人で出掛けている


ノブアキ君の旅行の日程に合わせ、更に部長達にナナちゃんとの交流を仕掛ける…


苦労したわ…


でも、レンジ君との2人きりの空間を作る為ならどんな苦労も惜しまない


「まぁ…ノブはいても真面目にやらないし、ちょうど今日で良かったんじゃない?」


親友とも呼べるノブアキ君をサラッと切り捨てるレンジ君


まぁノブアキ君はこの際どーでも良い


「じゃあ…文化祭でやるストーリーを私達なりに考えましょう?」


「うん!そうだね…あらかたのストーリーは決まってるし…」


実は文化祭でやる朗読のストーリー


題材を何に決めるかかなり揉めたんだけど…


平和に訴える話、童話のお話


でもそれは観客である生徒達は飽きてしまう見込みが大きい


それで、かつて経験の無い恋愛物を作り、発表する事になったんだ


しかし、まだストーリーそのものは作製途中だ


初めて作る題材にみんな四苦八苦していたんだ


「私、お気に入りの小説持って来たんだ!これも参考にしたいの!」


「うんうん…!」


私達は部長に見てもらう草案を作る事にしたんだ


…まぁもちろん目的はそれだけじゃないけどね


「ふぅん…聞いた感じ、良いお話だね」


「そうでしょ?だから、雰囲気だけでも私達がやるストーリーに盛り込みたいの」


朝から2人でらあれこれと話し合い、ノートに色々と書き込む


「女の子が好きな人の為に苦しんで…でも最後は結ばれるか…」


私はレンジ君に持って来た小説のエピソードを簡単に話す


「うん!やっぱりラブストーリーならハッピーエンドでしょ?」


「まぁそうだよね…悲恋だったら盛り下がっちゃうだろうし」


…そう、私とレンジ君の恋愛もハッピーエンドで終わるんだ…!


ここで、私はレンジ君に恋愛の話をしてみる



「私は…こういう恋愛がしてみたいの…」


「この小説みたいな?…聞いた感じ、女の子が苦労するみたいだけど…」


「うーん…好きな人の為なら苦労してみたいわ…」


「ふぅん…そんな物なのか…」


「男の子には分かんないか…ふふふ♪」


「うーん…分かんないかも…はは♪」


困った様な笑いをするレンジ君


「……レンジ君は…どんな恋愛してみたい?」


「え?」


目を丸くするレンジ君


まぁ…いきなりこの質問は驚くだろうな


「え…あ…うーん…上手く答えられないなぁ」


「そうだよね…でも、レンジ君だってもう中学2年でしょ?憧れの恋愛ってないの?」


「ど、どうしたの?」


「気になるじゃない?同じ年の男の子の恋愛感情って」


私は少し質問攻めをする


「……苦労ってのは分かんないけど…好きな女の子となら一緒に歩きたいし、遊びたい…楽しい事も苦しい事も分かち合いたいって…感じかな」


「へー…なんかロマンチストだね…分かち合いたいか…」


分かち合いたい…君と…!


しかし、焦っちゃダメ…!今はまだ早い…


「ロマンチストか…なんか照れるね♪」


「ううん!私は…そういったの良いと思うよ?大人な感じで!」


「そう?」


「そうよ…クラスの男子なんか部活かゲームかエッチな話題しか口に出さないし」


「エッチ…ハハ♪僕もクラスメイトだから言い返しづらいな…」


いや、レンジ君は違う…クラスの男子なんかとは比べ物にならないよ…


私は話を切り替える


「そうそう…レンジ君、ナナちゃんと同居しててどうなの?」


「どうって?」


「あー…いや…男の子は…その…ムラムラだっけ?しないの?」


「む…ムラムラ?」


「うん…だってナナちゃんかわいいじゃない?」


ライバルとなるであろう彼女をかわいいなんて言いたくないけど…


事実かわいい…夏休みが明けて登校してきたら間違いなく人気が出るはずだ


…まぁ…胸は私の方が大きいけどね!


「む…ムラムラなんてしないよ…」


「ふぅん……ウソついてない?」


「え…何で?」


「だって、バスタオル姿でウロつくんでしょ?」


「あ…まぁ…うん…注意はしてるんだけどね」


「バスタオル姿でムラムラしないなんて……長年連れ添った夫婦だよ?」


「…夫婦…」


悔しいけどそう言わざるを得ない


「…夫婦…か…まぁ昔は良く言われてたよ…いつも一緒だったし」


いつも一緒…


「ナナちゃんはからかわれるといつも怒ってたな…」


「ふぅん…じゃあさ……」


私は彼の意識を確かめるべく、この質問をする


「ナナちゃんが……レンジ君に告白してきたら?」


「え……?」


レンジ君が止まってしまう


換気の為に開けた窓からうるさいセミの鳴き声がする


「な…何?急に…どうしたの?」


レンジ君は質問をかわそうと必死だ


「…だって…ナナちゃんかわいいしね…それに幼馴染でしょ?」


「あ…あははは…ナナちゃんが僕に……そ、それは無いと思うよ…うん」


「どうして?」


「どうしてって…ナナちゃん昔、僕の事好みじゃないって言ってたし」


「…そうか…じゃなくて…!今だよ?今は分かんないじゃない?」


「今……うーん……女の子と付き合った事無いし……勢いで頷いちゃうかも…」


勢い…か…まぁ…そうかもね…男の子なんて


だけど勢いで頷いちゃうなら私にだってチャンスはある…!


「どうしたの?急にさ…」


「あーいや!なんか気になったから…うん!ゴメンね♪」


私達は改めて作業に取り掛かる


…勢い……


でも、その勢いをいつ出すかが重要よね…


今日はここまでにしとこう…


焦って失敗したら元も子もないわ…!


でも、私は何かを伝えたい…


その気持ちは強かった


昼頃、ある程度の作業を終えて私達は帰り支度をしてる


レンジ君は机や椅子を整理している


その時私は切り出す


「ナナちゃんって…明るいよね?」


「あーそうだね…まぁ気分屋なんだけどね」


「私ね…中学上がるまでは…本当に暗いって言うか…大人しくて引っ込み思案だったの」


「そうなの?」


レンジ君が不思議そうに私を見つめる


「うん…でも、この部活に入って私は変われたの」



「変われた…まぁ誘った僕としては嬉しいかな♪」


「うん、そうだよ」


「え…?」


「レンジ君のお陰で変われたの…私は…!」


レンジ君はまた、目を丸くする


「僕のお陰で…?」


「そうだよ……だから…」


私は部室の窓を閉めながら告げる






「責任、取ってね…?」