「ただいま」


誰もいない家に入り、僕は静寂に向かい、帰宅を告げる


「ふぅ…今日は卵が安かったなぁ♪」


買い物袋をキッチンのテーブルに置いて、一息つく


「あ…そうだ…!」


僕は仏間に向かう


「ただいま…」


仏壇に向かい、手を合わせる


そこには写真が1つ…僕の母さんだ


「さて…夕飯作らないと!」


僕はキッチンに向かい、支度をする


今日はチキンカレーだ


手間は食うけど手作りだ…ご飯を炊いて野菜や、鳥肉を炒めながらカレーの準備をする


それに、カレーはタッパーに詰めて冷凍保存出来るから便利なんだ



「〜♪〜♪」


料理をしてる時は楽しい


寂しさを忘れられるから…


僕は坂崎レンジ、14歳


普通の中学2年生だ


母親は僕が幼い時に他界…うっすらと記憶があるくらいだ


父親は単身赴任…僕には兄弟はいない…つまり、現状僕は今、1人暮らしみたいな状況だ


「出来たー!」


チキンカレーの完成だ!


僕は食器を用意してご飯を盛ろうと炊飯ジャーに向かうと、玄関からチャイムが鳴り響く


「ん…誰かな?」


僕は玄関に向かう



「どちら様ですか?」


「東京地検特捜部です」


「は?」


ドア越しからは女性の声


「東京地検ちょくしょ…特捜部です」


「マコ姉ぇ…しかも噛んでるし」


「開けなさい」


「イヤですよ…特捜される様な悪い事はしてないですよ?帰って下さい」


「やーん!蚊に刺されちゃうー!開けてよう!」



「はいはい…」


玄関の扉を開けるとそこにはマコ姉ぇ


僕の従姉妹にあたる、高校2年生のお姉さんだ


季節は夏、今は夏休み


マコ姉ぇはTシャツにキュロットのラフな格好だ


とっても綺麗なお姉さんなんだ


「ひゃーまだ夕方だってのに暑いねぇ!」


マコ姉ぇは家に飛び込む


「おーう!クーラー涼しー!」


「で、マコ姉ぇ、どうしたの?」


「あーそうそう!かーちゃんからお裾分け!ほい!」


マコ姉ぇが差し出したのはタッパーの塊


僕はマコ姉ぇからそれを受け取る


「ホント?嬉しいなぁ♪んと…煮物に干物に…キュウリの浅漬けだね」


「そーそー!キュウリの漬物は私が作ったんだよ!」


マコ姉ぇが威張る


「まーキュウリ切っただけだけど」


…作った内に入るのかなそれ…


「クンクン…良い匂いね…今日はカレーね?」


「うん!まぁ煮物とかは保存して頂くよ…ありがとね」


「しかも!チキンね?」


「…鼻が効くね…正解だよ…食べてく?」


「うんうん!ご馳走になっちゃうー!レンジ君の料理美味しーんだもん!」


「はいはい!」


そして僕らは夕飯を食べる


「おー美味いわー!さすがねぇ…」


モリモリと、女子高生とは思えない勢いでカレーを食べるマコ姉ぇ


「ジャガイモは入ってないからね?足が早いし…夏だからね」


「レンジ君…マジで主婦みたいね…」


「そう?」


「普通いないわよ…料理が完璧な中2男子なんて」


「そうかな?」


「いないってば…大体、中2男子なんて部活かエロい事しか考えてないでしょ?」


「まーそうなのかな?」


「いやー嫁に欲しいわ♪」


「嫁?僕は男なんだけど…」


「まーまー例えよ例え!私んとこに主夫としてくれば、私とセックス出来るわよ?」


「あのね…従姉妹だよ?」


またなんて事を…


「あら?従姉妹でも結婚は出来んのよ?しかも!中出し出来ちゃうわけよ?」


「マコ姉ぇ…!女の子なんだから…」


「アッハハ♪冗談よ〜!て割りにはレンジ君私の体を舐める様に見てるし」


…視線でばれてしまった


「ふぃー!食った食った!ごちそーさん!」


「うん…それにしても大盛り2杯をよく食べたね?」


マコ姉ぇはお腹をポンポンと叩いて満足そうだ


作り手としてはとてもうれしい♪


そして、食器を片付けてマコ姉ぇにアイスコーヒーを入れる


2人で居間でくつろぐ


「つーかさぁ…レンジ君、ウチで住まない?かーちゃんもとーちゃんも…妹のマナも大歓迎よ?」


中学生の半ば1人暮らし…それを心配しての事だろう


「うん…ありがとう…でも、3ヶ月に1度は父さんも帰ってくるし、それに家って人が住まなくなるとらすぐダメになるって言うし…」


「そりゃそうだけどさ…」


マコ姉ぇはグラスの氷をカラカラと音を立たせる


「それに、マコ姉ぇの家って50m位しか離れてないじゃん…それだけで助かってるよ」


「まぁね…でも1人で寂しくないの?」


「…うん…こうやってマコ姉ぇ来てくれるし、役所関係の難しい事なんか叔母さんがやってくれるしね…本当、助かってるよ」


「そか…分かったわ…つーか…もうすぐねぇ…」


マコ姉ぇはアイスコーヒーを飲み干すと蛍光灯を見つめながら呟く


「もうすぐ?」


「忘れた?…ナナちゃんの…」


「……!!」


一瞬、沈黙する…蛍光灯の明かりの独特の音がやけに耳にまとわりつく


「いや…君が忘れる訳無いか…だってナナちゃんだもんね」


「うん…まぁね…」


僕はそう告げるとアイスコーヒーのグラスの氷がカランと音を立てる


「…忘れるなんて無理だけど…元気…出しなさいよ?」


「…そうだね…ていうか…そんなに元気無い?僕…もうあれから4年は経つけど…」


「まぁね…伊達に君の従姉妹やってる訳じゃないのよ?…時々寂しそうに見えるからね」


マコ姉ぇは凄く鋭い人…


僕の普段からの態度や表情で色々読まれてしまう


「ま…早く好きな人見つけなよ?」


その言葉に僕は複雑な思いになる


「お姉ちゃんが恋人になってあげようか?」


「あのね…」


「ふふふ♪冗談よ!ま!部活とかクラスメイトだって女の子は沢山いるんだから…ね?」


「うん…ありがと…」


「さて…私は帰るかなぁ…ごちそー様ね!」


マコ姉ぇは帰って行く…そして、また僕はこの家に1人になる


ソファに横になる


蛍光灯を見つめる


…蛍光灯…そろそろ切れるな…



買いに行かないと…