「こっちは俺が運ぶよ」


ノートをひょいと持ち上げ、先輩は「行こうか」と私に目を向ける。


(あ、そっちは重い方なのに…)


軽いプリントの束を手持ち無沙汰な気持ちで抱えて先輩の声に頷いた。


「えーと、何さん?」


階段を登りながら先輩がこちらに顔を向ける。


「中原和子です」


「わこ?どういう字?」


(ええ、いきなり呼び捨てになってるよ…)


「平和の和に、子供の子です」


「へえ、かわいい名前だね」


かわいい!?

さらりと言ってのけたことに年上の余裕のような、明らかな差を感じる。

1つ年が違うだけでこんなにも大人びて見えるのだから不思議だ。


飛び跳ねた心臓を落ち着けようと、こっそりと深呼吸を繰り返した。