「家、どっちの方向?」
深い青色のマフラーを首に巻きながら優先輩は私に顔を向けた。
「駅のほうです」
「じゃあ同じ方向だね」
そう言って先輩は駅に続く道へと歩き出す。
(えっと…どうすればいいの?)
立ち止まったままの私に、先を歩いていた先輩が振り返って首をひねってみせる。
「どうしたの?」
(一緒に行くってこと…?)
「行くよ?」
先輩が笑った。
その笑顔に、仕草に、言葉に心臓が甘く締め付けられる。
「はい!」
私は駆け足で先輩に追いつく。
私が隣に並んだのを確認した優先輩は「いい子」と小さく呟いてまた足を進める。
先輩にとっては、女の子と一緒に帰るなんて何でもないことなのかもしれない。
けど、それでもいいや。
それが先輩の優しさで、私が好きになった所だ。
「寒いですね」
「嬉しそうだけど」
なんでそんなに嬉しそうなのか、みたいな口調で優先輩は言う。
先輩と歩けるなんて、こんなに嬉しいことはない。
笑みがこぼれるのは仕方ない。
「先輩の家は駅の近くなんですか?」
「俺、電車で通っているんだ。家は隣駅だよ」
「隣駅だと朝早そうですね」
白い息をはきながら、相づちを打つ。
冷たい風が私と優先輩の間を吹き抜ける。
「和子ちゃん寒そう。なんでマフラーとかしてないの」
「去年、破けたんですよ!そのまま買わずにずるずる来ちゃって…」
「マフラーなかったら俺、外歩けない」
優先輩は私を横目で見て「寒そう」とまた呟く。


