「俺、彼女いないよ?」
「…え?」
「泣い…て…。落ち着いて、和子ちゃん」
優先輩が私の腕を優しく引き、机に寄りかかるように誘導する。
机に軽く腰かけた私は、目の前にいる優先輩の顔を見上げて声を絞り出した。
「彼女いるんじゃないんですか…?」
「いたけど今はいない…。それ誰から聞いたの?」
「部長…」
葉山?と部長の名字を聞かれたので、私は頷いた。
「すぐ別れたから知らなかったんだろなぁ」
一人納得したように優先輩は呟く。
じゃあ私、先輩のこと好きでいていいの?
ぱっと世界が明るくなったように感じて、優先輩と目が合う。
私、優先輩こと諦めなくていい。
好きだって伝えていいんだ。
「ていうか、なんで彼女いたら優しくしたらいけないの?」
優先輩はそう尋ねて小首をかしげる。
「そ、れは…えっと…」
うそ、私、言葉に出してた?
そんなの告白したのと同じだ。
(は、恥ずかしい…。顔が熱い)
首の傾けるその表情は至って真面目だけど、先輩は本当に気づいてない?それともはぐらかしてる?
「……っ、わからないならいいです!」
「えっ。…すごく気になる。教えて、ダメ?」
「私からはお教えしません!」
「えー…。まあ和子ちゃんが元気になったのならいいか」
その笑顔が、その優しさが好きだって言いたい。
けれど、今はまだ決心がつかないから。
もう少し、このままで。
このままでいさせてください。


