ため息をつきながら1階と2階の間、階段の踊り場が見えて、まだ先は長いと憂鬱になる。

ハードだと聞いていたがそれでもいいと入部した部活のおかげで筋肉痛になっていた足は、自分の意図していたより上がってくれなかった。

つま先が階段に引っかかり、あ、と思った時には体重を前に傾けていて、姿勢を立て直す暇もなく盛大に転んだ。


「いった…。あー…だよね」


鈍い痛みと気恥ずかしかに耐えながら起き上がってみれば、予想していた通り、手に抱えていたものが見事に散らかっている。

人がいないかったことがせめてもの救いだ。

やれやれ、とため息をつきながら近くのものから拾おうとスカートの汚れを払いながら立ち上がった。


「大丈夫?」


突然かけられた声に後ろを振り向く。

男の人が折り返した先の階段から降りてきて、踊り場に散らばったノートたちと私を交互に見ていた。


(うわぁ、かっこいい人だな…)


茶色っぽい瞳と髪。

切れ長なのに優しげな目元が印象的で、不思議な魅力を持った人だと思った。


「手伝うよ」


言いながら、その男の人はノートやプリントに手をのばす。


「あ、ありがとうございます!」


ハッと我にかえって、私も慌てて手を伸ばした。

ノートとプリントを集めながらその人のネクタイを覗き見れば、1つ上の学年の2年生だった。


(先輩か…道理で見たことない人だ)


すべて拾い終わってから「ありがとうございます」ともう一度お礼を言う。


「いいよいいよ。気にしないで」


その先輩は笑って顔の前で手を振り、気にしないでと優しく言ってくれる。


「あの…」

「ん?」

「転んだの、見ました?」

「えっ、あ…ごめん」


ぎくっとしたような表情を浮かべ、続けて先輩は苦笑いする。


(あぁ、やっぱり見られていたんだ)



申し訳なさそうに謝る先輩がなんだかおかしくて、私はふっと笑った。


「なんで謝るんですか」

「その…思わず笑っちゃったんだ」

「えっ…忘れてください」

「俺は覚えていたいなあ」

「ダメです、忘れてくれないと困ります」

「あはは、面白い子だな。引き止めちゃってごめんね」


なんだか軽く遊ばれたような気がするけれど、それが嫌味っぽく感じないのは物腰の柔らかさが理由なのだろうか。


「…あ、1ついいですか?」

「ん?」

「準備室ってどこですか?4階にある準備室に行きたいんです」


先輩なら知ってるかな、と思い当たり聞いてみる。