優先輩が頼まれた雑用は資料作りで、私たちは人がほとんど通らない準備室で新入年への資料作りをすることになった。


(もう先輩になるのか…)


資料をまとめながらしみじみと思う。

高校生活に慣れることと、勉強と部活の両立に夢中になっていたら季節が過ぎるのはあっという間にだった。


「部員増えるかな…」


「和子ちゃん何部なの?」


「バレー部です」


「えっ」


先輩は驚き、手元から目線を上げて私を見る。

見開かれた瞳はやはり茶色がかっていて、きれいな琥珀色に私が写り込んだ。


「…身長いくつ?」


聞かれると思った。

予想していた通りの言葉に、私はふてくされたような表情をしてみせる。


「155です」


ほとんどの部員は160以上あって、悲しいことに私は部活の中で最小だ。


「リベロ?」

「え、すごい!リベロを知ってるんですか?残念ながら私は違うんですけどね」


自分の好きなバレーについて優先輩が興味あることになのか、自分に興味を持ってくれているからなのか、嬉しさで声のトーンが高くなる。

私の言葉に表情を豊かに変える優先輩に、どうしても胸が高鳴る。


「え、そうなの?スパイク打てる?」


先輩は作業の手を止めて、身を乗り出す。


「打てますよ、ウィングスパイカーです!今週の土曜には体育館で練習試合あって、スタメンで出させていただきます!」


「ほんとに?」


にぎやかに返事をする私は必死に見えたのか、頬杖をついた優先輩はからかうような笑みを浮かべる。

その光景は息が止まるほど胸にぐっときて、心臓が大きく跳ねたように、あるいは止まったように感じた。

時が止まるとはこういうことを言うんだ。