古めかしい扉が開く。

 錆付いた蝶番は音をたて鳴き、訪問者が来たことを家の主に知らせる。

 訪問者の少女は恐る恐る建物の中へ進み、注意深く観察していく。

 薄暗い室内。

 外は快晴で明るいというのに、この部屋の中は薄暗く、明かりを灯さないと安全に歩くことができない。

 その理由は、規則性のない並び方をしている本。

 それに、多くの雑貨類。

 または、不気味な表情をしている人形。

 その他に埃をかぶった油絵が、床に無造作に置かれていた。

 これらはこの家の主人の性格を反映しているのか、掃除をしている形跡は一切なく、どこか埃っぽい。

「あ、あの……」

 勇気を振り絞り、声を出してみる。

 だが、相手からの返事はない。

 どうやら店の主人は留守らしく、そのことに少女はガッカリしてしまうが、このまま帰るわけにはいかない。

 時間潰しということで主人が帰宅するまでの間、乱雑に置かれている物を見て回ることにする。

 最初に目に付いたのは、床に大量に置かれている本。

 それら全ては童話で、どれも古めかしく本の端がボロボロになっていた。

 少女は何気なく一冊を手に取ると、頁を捲っていく。

「あっ! 懐かしい」

 書かれている話に、懐かしさが込み上げてくる。この本はやっと文字が読めるようになった時に、両親から買ってもらった童話。

 しかし至るところにシミや汚れが目立っていたが、間違いなかった。

「痛い!」

 その時、掌に何かが刺さったような気がした。

 痛みに思わず本を床に落としてしまい、数枚の頁が剥がれ落ちてしまう。慌てて本を拾い上げようとするが、同じような痛みが再び掌に走る。

 見れば掌に赤い点のようなものが浮かび上がっており、微かに血が滲んでいた。

「な、何!?」

 本の間に刃物が仕込まれているのではないかと思い、注意深く観察していくが何もない。

 恐る恐る再度本に触れてみるが、先程の出来事があるので指で本の表面を叩き安全かどうか確かめる。

 叩いても、何も起こらない。そのことに少女は胸を撫で下ろすと、本をもとの場所に戻し、別の物を探しはじめた。

 刹那、本が微かに動き出す。

 だが、少女は本に背を向けているので全く気付いていない。

 ゆっくりと、頁が捲られていく。

 音もなく、まるで意思を持つかのように――