「お前の笑顔って、嘘くさいよな」
彼にそう言われた時、僕は少なからず傷ついた。
でも、傷ついたことを口に出すような年頃でもなければ性格でもない。
だから、
「えー、ひどいなぁ」
とまるで気にしていないような口調で笑った。
今日の昼休みのことだ。
彼とは高校に入ってから友達になった。
一番はじめの席順が前後になっていて、必然的に話すようになり、今年一年つるむこととあいなった。
人の間の関係性なんて、薄情なもんだ。
小学生のときすごい仲良かった奴と、中学入ってクラス分かれたら自然消滅。
そういうことは良くある。
だから、彼とつるむのも二年で同じクラスにならない限り、高1の間だけのことだろうと勝手にたかを括っている。
しかし、僕は自分でも予想外に彼といるのが楽しい。
なんか、普通にともだちーって感じ。
新鮮。
うん、新鮮。
友達は中学時代にだっていくらでもいたけど、新鮮さはなかった。
腹の探り合い。
神経すり減らすような気の使い合い。
慣れてたからそんな苦痛ではなかったけれど。
僕は小学五年生のときに軽いいじめにあっていた。
今だから軽かったと言える。
他のもっと悲惨な例を幾つも聞いたから、ああ、僕がされてたのは『そーでもないヤツ』だったんだって。
でもあの頃の僕にとっては永遠に続くかと思われる苦痛の日々だった。
きっかけは些細なこと。
ある先生の悪口を、一部のクラスメートたちが楽しそうに話していた。
飛び交うのは、そこまで言う必要があるのかと思うようなことや、絶対本人には聞かせたくない、酷い言葉。
僕は思ったことを、何気なしに、ほんと何にも思わずに口に出した。
そこまで言うことないんじゃないか、僕はあの先生、結構好きだよ。
次の日から、何故かクラスメートの誰も口を聞いてくれなくなった。
教科書や体操服を隠された。
訳が分からなかった。
自分がそんなことをされる理由を、どうしても思いつけなかった。
先生の件は、きっかけにすぎなかった。
もともと彼らの中には僕に対する不満みたいなものがあって、あの時堰が決壊した。
僕は悟った。
自分に素直なことは、美徳などではない。
集団の中で生きていかなければならない人間にとっては、忌むべき性癖なのだと。
物を隠されたり、廊下で後ろから突き飛ばされたりされるのより何より、無視されるのが辛かった。
まるで、僕なんか必要ないのだと言われているみたいで。
悲しくて、辛くて、でも奴らの目の前で泣くのはしゃくで、必死に唇を噛み締めていた。
六年生に上がって、新しいクラスメートに話しかけてもらった時、嬉しくて、何故か怖かった。
いつか再び孤独に突き落とされるのではないかとびくびく怯えていた。
僕は常に微笑んでいることを覚えた。
愛想良くにっこり微笑まれて、嫌な気分になる奴はそういない。
腹が立っても、嫌なことでも、にっこり笑って、流されていく。
流れにうまくのっていれば、一人にならないですむ。
だから、たとえそれが自分を殺すことなのだとしても、僕は享受した。
僕は孤独ではなくなった。
中学では友達がいっぱいできて、誰からも好かれた。
嘘の笑顔で作った友情。
それでも、僕にとっては本物だ。
人は大なり小なり、自分というものを演じ分けるものだ。
愛想笑いをしたことのないやつが、果たしているだろうか。
僕は孤独が怖い。
だから嘘の仮面をかぶり続ける。
………時々、真っ直ぐに自分の思ったことを口にしていた、何も知らない自分が懐かしくなる。
ちょっぴり恋しい。
でも、今の自分が間違ってるなんて思わない。
…………思わない。
彼にそう言われた時、僕は少なからず傷ついた。
でも、傷ついたことを口に出すような年頃でもなければ性格でもない。
だから、
「えー、ひどいなぁ」
とまるで気にしていないような口調で笑った。
今日の昼休みのことだ。
彼とは高校に入ってから友達になった。
一番はじめの席順が前後になっていて、必然的に話すようになり、今年一年つるむこととあいなった。
人の間の関係性なんて、薄情なもんだ。
小学生のときすごい仲良かった奴と、中学入ってクラス分かれたら自然消滅。
そういうことは良くある。
だから、彼とつるむのも二年で同じクラスにならない限り、高1の間だけのことだろうと勝手にたかを括っている。
しかし、僕は自分でも予想外に彼といるのが楽しい。
なんか、普通にともだちーって感じ。
新鮮。
うん、新鮮。
友達は中学時代にだっていくらでもいたけど、新鮮さはなかった。
腹の探り合い。
神経すり減らすような気の使い合い。
慣れてたからそんな苦痛ではなかったけれど。
僕は小学五年生のときに軽いいじめにあっていた。
今だから軽かったと言える。
他のもっと悲惨な例を幾つも聞いたから、ああ、僕がされてたのは『そーでもないヤツ』だったんだって。
でもあの頃の僕にとっては永遠に続くかと思われる苦痛の日々だった。
きっかけは些細なこと。
ある先生の悪口を、一部のクラスメートたちが楽しそうに話していた。
飛び交うのは、そこまで言う必要があるのかと思うようなことや、絶対本人には聞かせたくない、酷い言葉。
僕は思ったことを、何気なしに、ほんと何にも思わずに口に出した。
そこまで言うことないんじゃないか、僕はあの先生、結構好きだよ。
次の日から、何故かクラスメートの誰も口を聞いてくれなくなった。
教科書や体操服を隠された。
訳が分からなかった。
自分がそんなことをされる理由を、どうしても思いつけなかった。
先生の件は、きっかけにすぎなかった。
もともと彼らの中には僕に対する不満みたいなものがあって、あの時堰が決壊した。
僕は悟った。
自分に素直なことは、美徳などではない。
集団の中で生きていかなければならない人間にとっては、忌むべき性癖なのだと。
物を隠されたり、廊下で後ろから突き飛ばされたりされるのより何より、無視されるのが辛かった。
まるで、僕なんか必要ないのだと言われているみたいで。
悲しくて、辛くて、でも奴らの目の前で泣くのはしゃくで、必死に唇を噛み締めていた。
六年生に上がって、新しいクラスメートに話しかけてもらった時、嬉しくて、何故か怖かった。
いつか再び孤独に突き落とされるのではないかとびくびく怯えていた。
僕は常に微笑んでいることを覚えた。
愛想良くにっこり微笑まれて、嫌な気分になる奴はそういない。
腹が立っても、嫌なことでも、にっこり笑って、流されていく。
流れにうまくのっていれば、一人にならないですむ。
だから、たとえそれが自分を殺すことなのだとしても、僕は享受した。
僕は孤独ではなくなった。
中学では友達がいっぱいできて、誰からも好かれた。
嘘の笑顔で作った友情。
それでも、僕にとっては本物だ。
人は大なり小なり、自分というものを演じ分けるものだ。
愛想笑いをしたことのないやつが、果たしているだろうか。
僕は孤独が怖い。
だから嘘の仮面をかぶり続ける。
………時々、真っ直ぐに自分の思ったことを口にしていた、何も知らない自分が懐かしくなる。
ちょっぴり恋しい。
でも、今の自分が間違ってるなんて思わない。
…………思わない。