「行ってきます」


「奏!」


玄関のドアを開けようとした瞬間、パタパタと走って来る母さん。


「どうしたの??」


首だけ振り返りそう聞くと、母さんは俺の背中をポンと1回軽く叩いた。


「誕生日おめでとう」


その言葉に驚いて一瞬反応が遅れる。


「ありがとう母さん……。それじゃあ行ってきます」


ヒラヒラ手を振れば母さんも同じように手を振ってくれ、それを見てから玄関のドアを閉めた。


「3日前は玲斗の誕生日だったのに早いな……」


玲斗の誕生日から3日後の6月20日。
今日は俺、長坂奏の誕生日。




「長坂君おはよ!今日誕生日だよね??」


「おめでとう!」


電車と徒歩を介して学校へ着くと、校門のところで突然知らない女子2人に呼び止められた。


「あぁ、ありがとうね(誰??っていうか、朝からうるさいな……)」


テキトーに笑ってさっさとその場を離れて行けば、後ろで何か盛り上がっているみたい。


「長坂!お前誕生日だろ?」


「マジで!?おめでとう!」


靴を履き替えて教室へ続く廊下を歩いていると、今度は何か見たことある男子2人に呼び止められた。


「ありがとう(誰だっけこいつ達)」


※去年同じクラスだった人。


見たことある気がするけど思い出せないからまあいいかと思い、さっきと同じようにテキトーに笑ってすぐにその場を離れた。


「この歳になって誕生日とか別にいいのに……」


誰もいない廊下で響いた俺の独り言。
でもその言葉は教室に入った途端かき消された。


「長坂君、お誕生日おめでとう!」


「長坂、誕生日おめでとう!」


何でクラスメートがこんなにも俺の誕生日を知ってるのか知らなけど、朝からこんなに大人数に囲まれてすごく疲れる。


「よかったらこれ受け取って?」


イライラしている俺はプレゼントらしき物を押し付けてくる女子に心の中で舌打ちしながらプレゼントを受け取りクラスメートをかき分け自分の席で突っ伏した。


「お疲れ様カナデ」


近くで聞こえたのはリョーの声。
その声を聞いて顔を上げるとニッコリ笑ったリョーがいた。


「もう疲れた……家に帰りたい」


「それは早すぎなんじゃね?」


「でたよ、カナデの家に帰りたい症候群」


リョーと話していると登校して来たのは玲斗と瀬那。
2人はケラケラ笑いながらそう言った。


「玲斗とセツ子がこんなに早く来るなんてさ~、雨でも降るんじゃな~い??」


女子と話していたナルも話を切り上げこっちへやって来た。