「この間より進んでる」


美術室の前に置かれている臥龍先輩の絵はこの前見たときよりも進んでいた。


「それにしても、サッカー部モデルだったとわね……」


「あれ??後藤先輩」


後ろに人が立っていることにも気が付かないほどに見入っていたのか、と思いながらその声に振り返ると、水の入ったバケツを持ったトナミちゃんがいた。


「蛍と舞璃にバスケ部のことは聞きました。空手部のことは詩音から」


美術室にはまだ誰も来ていなくて、トナミちゃんとボクだけしかいない。
臥龍先輩の絵について話していると、だんだん総体についての話になり、バスケ部と空手部のことを話せば、トナミちゃんもマネージャーである3人から聞いていたようだ。


「今年は全国大会まで行った部活ないらしい」


「あまり他の部の人と関わりはないんですけど、やっぱり残念だなって思います」


パレットに絵の具を出しながらそう答えるトナミちゃん。
やっぱり同じ学校である以上ボクもそう思う。


「ワタシ、サッカーとかバスケみたいにみんなで1つのボールを追って遠い距離からゴールを決めるスポーツを見ると、描きたくなるんです」


「そうなんだ」


「はい、だからやっぱり、描きたい衝動に駆られるものには何だか愛着湧いちゃって応援したくなっちゃうんです」


「そう……なんだ……」


バスケはレイとナルがいるから応援したくなる。
サッカーは……、まあ……そこそこ。


「3年生と長くいられる美術部は大好きです。だけど、総体とか見ると、一緒にプレー出来ることが少し羨ましく思います」


「まあね、だけどそんな楽しそうな姿を描くのも楽しいと思う」


ボクのその言葉にキョトンとした顔をした後、気の抜けた笑顔を見せてくれた。


「トナミちゃんも、運動部に負けないようにコンクールに向けて頑張ってね」


「はいっ!ありがとうございます!」


「おじいちゃんまだ来ないのかな??ボクちょっと探しに行ってみる」


その笑顔に頷いて、おじいちゃんこと顧問の美濃先生を探しに行くため美術室を出た。


「随分私の絵を褒めてくれるんだな」


「!!?」


ドアを閉めた瞬間、背後から突然話かけられおもいっきり驚いてしまった。


「お前はよく驚くな、後藤」


呆れたように立っていたのは臥龍先輩。


「褒めてくれるんだなってことは、最初から居たんですか」


苦笑いをするボクにフッと笑った先輩。


「後藤、砺波は面白いだろう??」


「まあ、確かに面白い子です」


「ならいい」


なんてマイペースな人だ。
話の内容がコロコロ変わる。


「返事はまたそのうち聞こう」


「えっ、返事って??」


また突然意味不明なことを言い出した先輩にボクの頭は付いて行けない。


「この前の話だ」


ニヤッと笑って美術室へ入って行った臥龍先輩にボクは何が言いたかったのかを理解した。


「トナミちゃんの話か……」


支えてやってほしい、と言われたあの言葉。
確かにボクは返事をしていない。
っていうか、トナミちゃんはボクなんかに支えられなくても大丈夫だろう。

ボクは閉められたドアの向こうで楽しそうに話すトナミちゃんの声と、きっと優しい笑顔で聞いているであろう臥龍先輩の姿を思い浮かべて、笑いそうになるのを我慢しておじいちゃんを探しに向かった。