6月の蒸し暑さを背に受け、俺達はこの体育館での試合を終えた。
いや、終えてしまったんだ。


俺達霧南バスケ部は負けた。


「県ベスト4という成績は本当に素晴らしいものだと思う。みんな、お疲れ様」


日向さんは部員に笑顔でそう言った。
ナルはその隣で唇を噛んで黙っている。
俺もナルと同じ気持ちだ。


日向さんの笑顔が今は辛い……。


「あっ……りょうだ」


学校に着くと空手部もちょうど帰って来たところらしく、りょーすけと遭遇した。


「ナル…レイ……」


目を合わせた瞬間に理解した。
あぁ、りょーすけもそうだったのか。
空手部も終わってしまったんだ。


りょーすけの話を聞くと、空手部の団体戦は県ベスト8まで行ったらしい。


「本当ならね、ベスト8まで来たんだからもうやり疲れたくらいなはずなのに……」


りょーすけの言葉が痛いほどわかる。
俺達もそうだから……。


「まだあの体育館でボールを触っていたいって……そう思うよ……」


手のひらを見つめるナルの目が、副キャプテンの目をしている。


「応援してくれてたのにな……」


俺が誰のことを言ったのかを2人は理解したようだ。


「瀬那もカナも自分のことみたいに思ってくれてたのにな……」


そう続けた俺に苦い顔で眉をひそめるナルとりょーすけ。


「大丈夫だよ、2人は笑ってくれるよ……」


悲しそうな笑顔のりょーすけ。


「ハハッ……俺達の支えは2人の笑顔だけってね~」


いつもの口調で言ったつもりなのだろう。
でもなナル、いつもはそんな顔じゃねーよ。


俺達は瀬那とカナがいるlibertyの部室へ向かった。


「……」


ドアを開けると優しい笑顔をした瀬那とカナが出迎えてくれた。
俺達は3人共少し気まずそうに目配せをした後、瞼をそっと閉じ、一呼吸置いた後口を開いた。


「実はさ…」


「3人共、お疲れ」


俺の言葉を遮って笑顔を向けたのは瀬那だった。


「セツ子……あのさ……」


「おかえり」


俺の変わりに話そうとしたナルを遮って瀬那のように笑顔を向けたのはカナだった。


「2人共……」


瀬那とカナはもう結果を知っているのか。
そのことに気付いたりょーすけは2人へ驚いたような顔をした。
そんなりょーすけの顔を見てふっと笑った後口を開いた瀬那。


「確かに今年は終わったかもしれない。だけど次はお前達だ」


「うん。だから俺達は、『頑張ったね』なんて言わないよ」


瀬那の後に続けられたカナの言葉。
そうだ……。
俺達はまだ来年がある。
だから今はまだ“頑張った”じゃ駄目なんだ。


2人からの激励は俺達が思っていた何倍も心の支えになった。