「あたし……何か変なこと言いましたか??……」


「あっいや!そんなことねーよ!それよりさ、修学旅行での話してあげようか??」


黙っていた俺に、申し訳なさそうに眉をひそめて言うもんだから、俺も焦ってしまった。
でも、修学旅行の話をしようかと言うと、明るい笑顔で頷いてくれた。


「でさ、瀬那がこれまたモノマネを極めるから、俺とナルも乗っかってさ。起きたカナには呆れられるし、りょーすけは天然だし」


「ふふっ、楽しそうな朝ですね」


楽しかった思い出をいろいろ話すと、伊吹も一緒になって楽しんでくれている。
そんな伊吹を見ていると、俺は秋葉原のゲーセンで思ったことをつい口に出してしまっていた。


「……伊吹、お前が一緒だったらなぁって思った」


「岡本先輩??……」


「秋葉原でゲーセン行ったときな、フルコンボ出して周り見たら観客居てさ、俺すげー嬉しかったんだ。でもな、なんか……」


チラッと伊吹の方を見ると、ポカンと口を開けている。
その姿に、伊吹本人にバレないよう軽く吹き出してから今度は俺がジッと伊吹の目を見つめた。


「やっぱりあれだな!マネがいないとプレイヤーは落ち着かねーって感じだな!」


「??」


頭にハテナマークいっぱいという顔をしている。
でも、俺はこれ以外に説明できない。っていうか、これが一番しっくり来ている気がするんだ。
だから、全然意味不明って顔をする伊吹を見て俺はハハハッと笑った。


「よくわかりませんけど、あたしもやっぱり岡本先輩がいないと落ち着かないというか、何かすごく違和感があって仕事あんまりはかどりませんでした」


苦笑いをしながらそう言った伊吹。


「(あー、何でそんなこと……よく照れもせずに言えるな……)」


そう思いながら、俺も苦笑いをするしかなかった。
全く可愛い後輩を持ったものだと、そう思いながら。


「これ先輩のですか??落ちてましたよ??」


伊吹が拾って手渡してくれたのは、浅草寺で引いたおみくじだった。


「おぉ、ありがとう」


受け取った手は動揺していなかっただろうか。
笑顔は引きつっていなかっただろうか。


《小吉:あなたの心を平和にして、他人のために尽くせば吉です。まずはあなたの家庭を平和にしましょう。そして、あなたの周りからだんだんに平和な気持ちを広げていきます。そうすれば、周りにどんな波風が立っていても、あなたとその周りだけは春風が吹きます。

恋愛:友人の助けあり

待ち人:連絡もなく来る人がいる

願い:誠を尽くして辛抱すれば叶う》


「家庭を平和にしましょう……か」


「どうしました??」


「なーんでも!」


受け取ったおみくじを握るだけで思い出すその内容。
それを振り切るように伊吹に遠足での思い出を話させた。
おみくじが手の中でグシャッと音を立てたことなんか知らないフリをして。