「あっそうだ!おみくじしたんだけど見る?」


何だか照れて居たたまれない空気になったのを変えるためにそう話を振ると、顔を上げて大きく頷いてくれた。


「大吉だったんですね!」


「すごいでしょ~?まあ俺だからね」


「それウザイです」


「うん、泣きそう」


蛍ちゃんからの華麗なツッコミに半ば泣きそうになりながらその後もたくさん話をした。話は尽きることがなかったけど、夕方になり俺達は帰ることにした。


「今日はありがとうね~!それから、その服すごく可愛いよ」


来た時に言いそびれた言葉を今やっと言えた。


「ありがとう……ございます」


目線を俺から外して不機嫌そうな顔をしながら顔を赤く染めている。
そんな姿に顔を綻ばせていると、突然俺の方へ目線を向けた。


「今日はありがとうございました。お土産も嬉しかったです。お話も面白かったです。それから……これ、アタシから先輩へです」


小さな紙袋を手渡されて中を覗こうとした俺に蛍ちゃんはストップをかけた。


「これは他の先輩方にはないんです」


「えっ?」


どうして?そう聞こうとした俺の言葉を遮ってさようならと言って駆けて行った。


「あっ……蛍ちゃん!また部活でね!」


遠ざかっていく華奢な背中にそう声をかければ一瞬立ち止まって俺へ軽く会釈をしてまた駆けて行った。


家に帰ってもらった紙袋を開けてみると、中から霧南動物園のロゴがタグに描かれているヒョウのストラップが出てきた。
それを携帯に付けてみると、何だか嬉しくて1人で笑っている自分がいた。


「(今日は何だかいつもと違う蛍ちゃんを見れてよかったな~)おっと、おみくじ落としちゃった」


床に落ちたおみくじを拾い、ふとそれを広げた。


《大吉:異性との出会いが自分自身の運命を変えてしまうでしょう。自然に身を任せて、素のあなたを出せば自ずと相手は受け入れてくれるでしょう

恋愛:愛を注げば幸せあり

待ち人:安心して待て

願い:時くれば叶う》


「素を出せば……か」


俺はそっと机の引き出しへそれを閉まった。
おみくじの内容を気にすることのないように。
おみくじの内容に期待なんてしないように。