「瑠美ちゃん」


それは昨日の放課後。

いつもなら部活で作ったお菓子を持って私が長坂先輩を探しに行くのに、その日はなぜか先輩が私のところへ来た。

ちょうど私も部活を終えて部室から出ようとしていたところで、私は驚いた。


「先輩もう部活終わられたんですか??」


「うん、今日は早く終わったんだよ」


いつも通り……を装っている。

何だかいつもと違う先輩。


「ねぇ、瑠美ちゃんももう終わったんだよね??、それじゃあさ、ちょっとだけ時間もらってもいい??」


いつもより早口にそう言われ、私は慌てて頷いた。

すると、先輩はそのまま私の手を掴んで歩いて行った。


連れて来られたのは人気のない階段。

いつもと違う先輩に私は心配になった。


「あっそうだ、先輩、これを」


「えっ??」


私が渡したのはついさっき作ったカステラ。


「先輩、元気になってください」


理由はわからないけど元気がなさそうだと思って、少しでも元気になってほしいと言いながら渡した。


「……ふふっ……くっ……くくっ……」


「えっ??……あっあのっ……」


なのに、先輩はいつもみたいにお礼を言ってくれるどころか、突然笑い出した。

その姿に困惑する私。


「あーあ……、本当に……これだから瑠美ちゃんは他の子と違うんだよね」


そんな私に、長坂先輩は優しく微笑みながらそう言った。

その言葉に動揺する間も無く、先輩は私に何かを手渡した。


「開けてみて」


質問することを許さず、有無を言わせない言葉に、私は黙って従うことに。

リボンを解いて中を開ける。

すると、そこに入っていたのはバニラ色のマカロンと、黒色の天然石が付いたネックレス。


「バレンタインのときはありがとう」


その言葉にようやくこれがホワイトデーのお返しだと気付いた。

それと同時に私はものすごく驚いた。


「何でそんなに驚いた顔してるの??」


「いえあの……、長坂先輩は誰にもホワイトデーのお返しをしないと聞いたので……」


バレンタインの前、長坂先輩はチョコを受け取らないと聞いたとき、一緒にホワイトデーのお返しをしないということも聞いた。

だから、まさかバレンタインの手作りチョコをもらってもらえるなんて思っていなかった私は、それだけでも充分すごいことだと思っていたため、まさかこんな風にお返しをもらえるだなんて考えもしなかった。


「まあそうだね、今まで一度もしたことないよ」


「じゃあ、どうして今年は……」


長坂先輩らしいその言葉。

でもそこで一つ疑問が生まれた。

今までしたことがないのに、それじゃあ何で今年はお返しをしようと思ったのか。