世間はホワイトデー一色に染まる。

大好きなあの人からお返しが来るのか、女の子達は一ヶ月前とは違う理由でソワソワ。

もちろんそれは朝霧稜南高校も変わらない。

みんな同じようにソワソワと落ち着かない様子。

その日は平日だということもあり学校のある日。

学校中、そんな甘い緊張感に包まれていた。

そして、いつもならそんなソワソワに乗らない関係ないイベントだという彼達も……。


「…………」


バレンタインに毎年いろんな子からもらっておきながら、ホワイトデーなんて自分の中では無いものだとお返しなんかしない長坂奏。

しかし今日はいつも以上に口数も少なく、どこか緊張した面持ち。


「あー……屋上行きてー……」


一応礼儀として、わかる範囲でお返しをしてはいるけれど、ホワイトデーなんて重要なイベントとは考えていない岡本玲斗。

しかし今日は緊張感に今にも耐えられない、という雰囲気を出している。


「何か、急に心配になってきた」


わざわざ自分にくれたのだからそのお礼をするのは当たり前だと思って、ホワイトデーはお返しをする日だと捉えている荒川涼桔。

しかし今日はいつもの落ち着きはどこへやら、ソワソワと落ち着かない様子。


「今更悩んでも仕方ないってわかってるんだけどネ」


岡本と同じく礼儀として、名前と顔がわかる範囲でお返しをする、ホワイトデーはそれだけのイベントだと捉えている後藤瀬那。

しかし今日は落書き程度に描いた絵の線が少しガタついていることから緊張していることがわかる。


「大丈夫でしょ、あの子達なら何でも喜んでくれるよ〜」


ホワイトデーは女の子の照れた可愛い顔を拝む日、そして来年のバレンタインデーのチョコ獲得数を伸ばすためのイベントだと思っている松岡成海。

しかし今日はいつもの自信に溢れた様子はどうしたのか、緊張を隠すように取り繕っているのがバレバレ。


学校中知らない人はいないという彼達、liberty。

五人のイケメン集団だとして有名で、バレンタインデーにはそのモテっぷりを最大限に見せつけた。

そんな彼達なのに、今彼達が頭に思い浮かべて、大切そうに手に待っているプレゼントを渡すのはそれぞれたった一人。

浮かんでいる相手こそ違えど、同じく一人だけ。


そしてその時間はやってきた。

彼達は自分のことだけで随分考え込んでいるのに、それでも思っている。

仲間のことを。

最後に昨日行ったように、拳を突き合わせ、そして一人、また一人と部室を後にした。







「瑠美ちゃん喜んでくれたよ。でもわかれるとき何かいつもと少し雰囲気違った」


「伊吹も最初すげー喜んでくれたのに、なーんかその後口数減ったんだよなー、何でだ??」


「小早川さんもすごく喜んでくれたよ。でも少し話ししたら用事を思い出したとかで走って帰っちゃった」


「トナミちゃんも喜んでくれたよ。トナミちゃんはいつも通り、……いや、いつも以上にニコニコしてたなぁ」


「蛍ちゃんは最初あれでも喜んでくれてると思ってたのに、何か最後変な反応だった〜……。何か俺だけ報われてない??……」


あんなに緊張していたのが嘘みたいに、帰り道ではミッションをクリアしたように清々しい顔をした長坂、岡本、荒川、後藤。

逆に松岡は少しガッカリした様子。

兎にも角にも、彼達はこの日、あの子に渡せたことに満足しながらいつもの道を帰って行った。







「瑠美……アタシどうしよう……」


「蛍……、私もどうしたらいいのかわからない……」


誰もいない教室。

幼なじみである女の子二人が泣きそうな顔をしている。


「私も……こんなの初めてで……」


「うん……あたしも瑠美と蛍と詩音と一緒……」


それに続くように呟いた女の子二人。

両手で顔を覆って下を向いている。


「みんな気付いちゃったね。ワタシも同じだよ。同じように気付いちゃった」


そんな四人に優しい笑顔を向ける女の子一人。


「一回、自分の中で整理をしよう」


「そうね、今日はそのために帰りましょう」


「それで、明日はちょうど休日だから」


「うん、また明日ちゃんと集まろうね」


「それでちゃんと一人ずつ話そ??」


“先輩としてではなく、恋愛感情で好きだと気付いこの気持ちのことを”