「寒いな……やっぱり部室が一番暖かかった……」


3月1日、暦の上では春の到来の時期。

だけど現在の気温は冬なみ。

俺は人のいない階段の隅で壁に身体を預けて寒さに文句を言う。

それならどこか暖房の効いた場所に行けばいいんだけど、今日ばかりはそれはできない。

理由は、卒業式をサボったから。

面倒だし興味がないしで今年も式をサボって部室にいた俺達だけど、さすがに式終わりになると担任が怒鳴り込んで来るだろうと思い、その前に俺達はバラけて逃げることに。

追われている身のため、そう簡単に動き回れないから俺は仕方なくここにいる。

他の四人はどこにいるだろう……。


「まあ瀬那と俺はともかく、他の三人は校庭が見える場所にいるかな」


校庭には今、卒業生と在校生が最後の別れを行っているだろう。

俺は別に3年生との思い出も特にないし、瀬那だってそうだろうから単純に隠れているだけ。

でも、他の三人は違う。

1年の頃から一緒に戦ってきて、悔しい思いをした総体を共に送った。

自分達はあまり気付いていないかもしれないけど、確かに背中を追っていた。

そんなこと言うと、特にナルは気持ち悪がるだろうけど、関係ない俺から見てもよくわかるほど。

それほどに三人は先輩との背中を追っていた。

だから、正直今年は式に出ると思っていた。

何だかんだ言い訳じみたことを言いながら。

なのに、今年も式には出なかった。

だけど部室にいる姿はいつもと違っていた。

玲斗とナルはいつもは誰より早く騒がしくなるくせに今日はやたら静かだし、リョーは俺達の雰囲気を見ているようで、その実目はチラチラと外に向かっていた。

バカのくせにこういうときやたら鋭い瀬那も、三人の雰囲気を感じ取ったのか口を開くことはしなかった。


「行きたいなら行けばいいのに」


なんて思いつつ、それを口にしなかったのは、きっとそれぞれ何か考えていると思ったから。

行きたくても行けない、行かない理由がそれぞれにあるんだと思った。

バカなのに、アホなのに、鈍感なのに……。

賢くて、理解してて、鋭い……。

俺にはわからない感情を持って、行かないと決めたんだとわかった。

意地を張ってるわけじゃない、なのに迷っている姿に、正直笑いそうになった。

あの頃じゃ考えられなかったから。

荒れて堕ちていたあの頃の姿からは考えられない。

そんな仲間の姿に、不覚にも嬉しいと思ってしまった。

……ちょっとね。

絶対本人達には言ってやらないけど。


何年も一緒にいて、いろんな姿を見てきたのに、初めて見る姿。

いつも思い切りがいいくせに迷いを見せた玲斗。

男に微塵の興味もないくせに尊敬の目を持ったナル。

いつもは伝えたいことはちゃんと言うくせに今日に限って口を閉ざしたリョー。

そして、そんな三人を見て、ちょっといいなぁ、とか思っちゃってるんでしょ、瀬那。

そして俺は……。


「日向さああぁぁぁん!!、俺達絶対全国行ってやりますからああぁぁぁ!!」


「!!……」


外から微かに聞こえたその叫び声。

窓が閉まっているのに聞こえるなんて、どれだけデカイ声で叫んだの玲斗。

しかも玲斗の特性からして屋上から叫んだんじゃない??

きっと他の三人も驚いた顔してるはず。


「全く……、バレないためにわざわざこんな寒いところにいた意味なくなるじゃん」


めんどくさいな、そう思いながら、他の三人も向かっているであろう屋上のほうへ仕方ないから俺も向かってやることに。


何年も一緒にいるからこそ、わかりやすい四人の感情。

そしてもちろん俺の感情は俺が一番わかってる。

だからこそ、この仲間を思って嬉しくて笑っちゃっている俺の感情なんてバラしたくない。

部室にいるとき、バレないように必死に隠していたこともバレたくない。

だって俺はそんなキャラじゃないでしょ。

まさか俺がお前達の姿に嬉しく思って、卒業式もいいものだ、なんて、そんなこと思ったなんて、絶対バレるものか。


「あー、寒い寒い、めんどくさい……」


俺はいつも通りの無表情になるようにそうわざと口に出した。