「成海君と会えなくなるなんて寂しい」


「松岡君私のこと忘れないでね!」


3月初め、まだまだ気温は冬に近く、外にいるには寒すぎる。

特別冬が好きなわけでも、寒いのが好きなわけでもないのに、それでも俺は校庭……しかもせっかくの晴天なのに陽の当たらない木の陰に立っていた。

卒業式なんか面倒でもちろんサボったlibertyは、そのまま部室にいると担任が怒鳴り込んでくるかもしれないと思い、それぞれに別れた。

他の四人はいったいどこにいるのか知らないけど、俺はここで隠れることに。

って言っても、そんなにガッツリ隠れる気もなかったから、俺の周りには卒業生の女の子達がたくさんいる。


「俺もすごく寂しいよ、だからいつでも会いに来てね」


俺のために涙を流す女の子達は大変可愛らしく、俺もそれに儚げに笑って見せる。

するとそれを見て、目の前の女の子達は余計に泣き出して、それでも笑顔で頷いた。

すごく可愛いな〜。

そう思う。

だけど、彼女達と同じ気持ちにはなれない。

こんなに可愛らしい女の子達が卒業してしまう、でも寂しさなんて微塵も感じられない。

そりゃあ自分のことではないからかもしれないけど、それでもほんの少しでも寂しいと思うのが普通なはずなのに。

加えて、いつもなら女の子に囲まれているこの状況も最高で、じっと女の子達を見つめていたいと思うのに、なぜか今日はそうじゃない。


「それじゃあまたね〜」


話し終えると、彼女達は手を振って去っていった。

俺はそれにいつものような笑顔で返すけど、正直内心では“やっとか”と思ってしまっていた。

自分で言うのもなんだけど、女の子大好きなこの俺が。


「ふぅ……、体調でも悪いのかな??」


……なんて。

本当はわかってる。

どうしていつもの俺じゃないのかくらい。

それは視界の端にチラつく集団の中央にいる人が原因。


「あーあ、男が集まってるなんてむさ苦しいよね〜……」


視界に入るのはむさ苦しくも泣いているバスケ部のメンバー。

そしてその真ん中には苦笑いをする元キャプテンの日向さん。


「男を目で追うなんて気色悪い趣味は持ち合わせていないはずなんだけど……」


自分の行動に呆れてため息がでる。

でも自分の気持ちに反して目は日向さんに向いている。


夏の始まりの時期、総体。

負けた俺達は全国大会へは進めなかった。

柄にもなく落ち込む俺のところに日向さんは来て言った。

俺達の全国大会にしか興味がない、と。

自分達が引退してしまうその日に、よくまあ後輩達のことを考えられたものだ。


「本当に馬鹿なキャプテンだよね〜……」


でも俺は……。


「日向さああぁぁぁん!!、俺達絶対全国行ってやりますからああぁぁぁ!!」


一人思い耽っていると突然聞こえたその声。

俺を含めて校庭にいる人達みんなが屋上へ目を向ける。


「玲斗何やってんだか」


隠れてしまって本人の姿は見えないけど、その声は確かに玲斗。

それじゃあ担任に居場所教えるようなものじゃん。

突然聞こえた声に対して驚きと、突拍子もないその行動に対して苦笑いが出る。

だけどそれ以上に、一気に胸がスッと軽くなった。

俺はもう一度日向さんを見てフッと笑い、木の陰から校舎へ向けて歩き出した。


「まったく玲斗はしょうがないな〜、俺も一緒に担任に怒られに行ってやりますか〜」


泣かないキャプテン。

馬鹿なキャプテン。

でも俺は、男になんか興味がないはずなのに、そんなキャプテンに、産まれて初めて憧れなんかというものを抱いてしまった。

俺もあの人みたいになりたい、なんて。


日向さん、約束覚えてますか??

俺達は全国大会必ず行く予定なので、そのための準備、ちゃんとしといてくださいよ。