スノーボールが完成し、調理部の部活が終了すると、私は出来たばかりのスノーボールを袋に詰めて、荷物を持ち、急ぎ足でグラウンドへと向かった。


「あれ??……いない……」


ちょうど休憩中なのか、陸上部の人達はあちこちに広がって座っていたりしている。

だけどキョロキョロと辺りを見渡してみても、どこにも私が探す人はいない。

どこに行っちゃったのかなぁ……。

肩を落としてため息をつこうとしたそのとき。


「今日はスノーボールなの??」


「っ!?」


突然耳元で聞こえた声。

驚いて勢いよく振り向くと、すぐ近くに私の探していた人である長坂先輩。

突然の登場にドキドキと心臓が煩くて、口を開くことができなくて、私は何度もコクコクと首を縦に振りながらスノーボールを差し出す。


「ありがとう」


そんな私とは違い、先輩はいつも通りお礼を言ってそれを受け取った。

何だか私だけ焦っているのが余計恥ずかしくなって、私は早々にここから立ち去ろうとした。


「あっ、待って」


でもそれを長坂先輩に呼び止められる。


「あのさ……」


不思議に思って先輩を見ると、先輩は目線を逸らし、何だか言いにくそうに口を動かした。

いったいどうしたのかと、先輩が続きを言うのをじっと見つめて待っていると、先輩は何やら意を決したように再び私を見て……。


「誕生日、おめでとう」


綺麗にラッピングされたプレゼントを私へ押し付けるようにしてそう言った。

私はまさか先輩が誕生日を知ってくれているなんて思わなくて、しかもプレゼントまで……。

そのことに驚いて目を見開いた。


「俺女物とか買ったことない、から、気に入らないかもしれない、けど、昨日も夜遅くまで考えてた、から、それだけは考慮、して」


恥ずかしそうにフイと視線をそらし、途切れ途切れに呟かれた先輩の言葉。


「じゃ、じゃあ俺部活戻るから」


「あっ、先輩っ」


先輩はそれだけ言うとさっさと他の陸上部の人達のところへ走って行ってしまった。

お礼を言おうとしたのに、先輩はいつの間にか遠くへ。



家に帰って、私は今日もらったプレゼントを開けた。

詩音からはレッグウォーマーとキャンドル。
舞璃からはカーディガン。
杏奈からはマフラー。
蛍からはミトンの手袋。

どれも可愛くて、私の好きなものばかり。


「長坂先輩は何をくれたのかな??」


心の中で4人にもう一度お礼を言ってから、さっきもらったばかりの先輩からのプレゼントを開けた。


「エプロンとウッドブレスレット!」


それは白地にラベンダーの柄が入ったエプロンと、ベージュのウッドブレスレット。


先輩は夜遅くまでこれについて考えていたと言っていた。

それってつまり、朝会ったとき、先輩があんなに眠たそうにしていたのはこれのせいってこと??


先輩に無理をしてほしくない。

部活で倒れたりしたらどうするんですか。

そう言いたいのに、なのに、私は喜んでしまっている。

先輩が寝不足になるくらい考えてくれていたことが嬉しい。

自然と笑みが零れる。


私はもらったばかりのウッドブレスレットを右手首に付けた。

右利きだから右手に付けたら邪魔になるはずなのに、なぜか右手にブレスレットを付けている長坂先輩。

私も同じく右利きだから右手に何かを付けることは少ない。

だけど、こうして同じ手に、色の違う同じようなブレスレットを付けていると、まるでお揃いのように思える。


「長坂先輩、ありがとうございます」


去ってしまった先輩には言えなかったお礼の言葉を、私は右手にあるブレスレットへ落とした。