学校中にピンクや赤の女の子らしい色が飛び交う2月14日。
今日はバレンタインデー。
そんな女の子らしいイベントなんてアタシみたいに可愛くない女の子には無縁の話。
チョコをあげる人は専ら友達だけで、男の子にあげるなんてありえない。
だけど今年はバスケ部のマネということもあり、マネの先輩達と一緒に用意したチョコを部員へと渡した。
唯一男の子に渡したものがそれなんて、他の子からしたらそんなの数に入らないと言われて笑われるのがオチ。
だけど、アタシは自分からチョコなんて絶対に渡さない。
渡したい相手なんて……そんなの……。
そう思っていたアタシに、いつものように軽い声で話しかけてきた松岡先輩。
松岡先輩なら来るとは思っていたけど、やっぱりチョコの催促に来た。
普段から女の子大好き病のこの人がバレンタインデーというイベントを喜ばないはずなんてなく、案の定いつもより多いギャラリーの女の子達に最大限にアピールをしていた。
男なら貰ってなんぼでしょ、とか考えていることは明白で、その軽さや、誰にでも向ける優しい笑みや言葉に、いつも以上にイラついた。
だから今日は一言も会話をせずに帰ろうと決め、ずっと避けていたというのに……。
やっと部活を終えて帰る時間になったとき、気を抜いていたアタシに話しかけてきた。
いろんな女の子から受け取ったお菓子の甘い匂いを付けて。
ヘラヘラと笑って。
それがどんどんイライラしてきて、アタシは冷たく突き放した。
どうせこんなこと言ったところでこの人はショックなんて受けないだろう。
どうせアタシの一言なんて軽く受け流して、他の女の子達のところへ行くんだろう。
そう、思っていた。
なのに……。
「俺、結構ショックだよ」
いつもより低めのトーン。
間延びしていない口調。
それに驚いて松岡先輩の顔を見上げると、そこには悲しそうに下がった目尻と無理矢理上げているのがわかる口の端。
切なそうに苦笑する松岡先輩の姿があった。
「松岡先輩??……」
どうせ軽く流されるだろう、どうせ来年チョコ頂戴ねとかヘラヘラ笑って言うんだろう。
そう思っていたのに、予想と大きく異なる姿に、どうしたらいいのかわからなくなる。
戸惑いながら名前を呼ぶと、ゆっくりとその口が開いた。
「この一年さ、俺、結構蛍ちゃんと仲良くなった気がしてたんだけど……、それって俺だけがそう思ってるの??……」
「えっ……」
「蛍ちゃんは思ってないの??」
いつもならきっと“思ってません”って言ってスルーするところ。
だけど、松岡先輩がいつもとは違う雰囲気で……。
「思って……ます……」
つい素直な言葉が出てくる。
「……俺は、蛍ちゃんと仲良くなって、他の男より、っていうか男の中では一番仲良いんじゃないかな、なんて思ったりして……、だからバレンタインにチョコくれないかなぁ、なんて……、それは俺の思い違い??……、俺の自惚れ??……」
そんなこと思われていたなん知らなくて、正直驚いた。
でも確かにその通りで、こんな可愛くないアタシと普通に接してくれる男の人なんて松岡先輩くらいで……。
だけど口に出すのが恥ずかしいアタシは小さく首を振る。
そして……。
「これ……」
持っていた袋の中から一つラッピングしてあるものを取り出す。
それは誰にあげるでもないのに、なぜかずっと大切に今日一日中持っていたチョコ。
「市販のもの……なので……不味くはない……はずですから……、欲しければあげますよ」
こういうところが可愛くない。
素直に渡せないアタシ。
でも……。
「うん、欲しい!蛍ちゃんありがとう!」
どうしてこの人は喜んでくれるんだろう……。
本当にバカみたい。
「あっ、でも俺女の子からのプレゼントは手作り派だから〜、来年はよろしくね〜!」
パチンとウィンクをしていつもの調子に戻った先輩。
「っ!!、知りませんっ!帰ります!」
「え〜!待ってよ〜!」
後ろでアタシを呼ぶ松岡先輩の声。
いつもの軽い調子の声。
なのに今はイライラがどこかに消えてしまっている。
少しのことでこんなにイライラしたりそれが治ったりするアタシも、相当バカ。
部活が終わり、libertyの部室に集まったのもほんの少し。
俺達はいつもより早く部室から帰路へと向かった。
手には女の子達からたくさんもらったバレンタインプレゼント達。
まさに男の勲章。
家に帰って自室でそれ達を机の上に置くと、置き切れないほどの量。
モテる男は大変だ〜、なんて嬉々としてそれを見る。
でもすぐに目線はある一つのチョコへ。
女の子からのプレゼントは手作り派の俺へのプレゼントの中、唯一の市販のチョコ。
手作り派でわざわざ女の子達にあれがいいとかこれがいいとか注文したのに……。
「ま〜さかこれが一番嬉しいなんてね〜」
手作り派を推奨している分際で何てことだと自分に驚きが生まれる。
でも、どんなにいろいろ思っても、どうしても蛍ちゃんからのチョコが一番嬉しいって思っちゃうんだ。
それは、ツンデレなあの子が見せた素直な姿を可愛いと思ったからなのか……。
理由はわからない。
だけどまあ、それでも今はいいかな。
俺にとって最高な日であるバレンタインデー。
だけど今年のバレンタインデーは、今までと比べものにならないほどの幸福感に満ち溢れた特別な日。
ラッピングを解いて一粒口の中に放り込むと、市販のチョコなのに、まるで食べたことのないような甘い味がした。
今日はバレンタインデー。
そんな女の子らしいイベントなんてアタシみたいに可愛くない女の子には無縁の話。
チョコをあげる人は専ら友達だけで、男の子にあげるなんてありえない。
だけど今年はバスケ部のマネということもあり、マネの先輩達と一緒に用意したチョコを部員へと渡した。
唯一男の子に渡したものがそれなんて、他の子からしたらそんなの数に入らないと言われて笑われるのがオチ。
だけど、アタシは自分からチョコなんて絶対に渡さない。
渡したい相手なんて……そんなの……。
そう思っていたアタシに、いつものように軽い声で話しかけてきた松岡先輩。
松岡先輩なら来るとは思っていたけど、やっぱりチョコの催促に来た。
普段から女の子大好き病のこの人がバレンタインデーというイベントを喜ばないはずなんてなく、案の定いつもより多いギャラリーの女の子達に最大限にアピールをしていた。
男なら貰ってなんぼでしょ、とか考えていることは明白で、その軽さや、誰にでも向ける優しい笑みや言葉に、いつも以上にイラついた。
だから今日は一言も会話をせずに帰ろうと決め、ずっと避けていたというのに……。
やっと部活を終えて帰る時間になったとき、気を抜いていたアタシに話しかけてきた。
いろんな女の子から受け取ったお菓子の甘い匂いを付けて。
ヘラヘラと笑って。
それがどんどんイライラしてきて、アタシは冷たく突き放した。
どうせこんなこと言ったところでこの人はショックなんて受けないだろう。
どうせアタシの一言なんて軽く受け流して、他の女の子達のところへ行くんだろう。
そう、思っていた。
なのに……。
「俺、結構ショックだよ」
いつもより低めのトーン。
間延びしていない口調。
それに驚いて松岡先輩の顔を見上げると、そこには悲しそうに下がった目尻と無理矢理上げているのがわかる口の端。
切なそうに苦笑する松岡先輩の姿があった。
「松岡先輩??……」
どうせ軽く流されるだろう、どうせ来年チョコ頂戴ねとかヘラヘラ笑って言うんだろう。
そう思っていたのに、予想と大きく異なる姿に、どうしたらいいのかわからなくなる。
戸惑いながら名前を呼ぶと、ゆっくりとその口が開いた。
「この一年さ、俺、結構蛍ちゃんと仲良くなった気がしてたんだけど……、それって俺だけがそう思ってるの??……」
「えっ……」
「蛍ちゃんは思ってないの??」
いつもならきっと“思ってません”って言ってスルーするところ。
だけど、松岡先輩がいつもとは違う雰囲気で……。
「思って……ます……」
つい素直な言葉が出てくる。
「……俺は、蛍ちゃんと仲良くなって、他の男より、っていうか男の中では一番仲良いんじゃないかな、なんて思ったりして……、だからバレンタインにチョコくれないかなぁ、なんて……、それは俺の思い違い??……、俺の自惚れ??……」
そんなこと思われていたなん知らなくて、正直驚いた。
でも確かにその通りで、こんな可愛くないアタシと普通に接してくれる男の人なんて松岡先輩くらいで……。
だけど口に出すのが恥ずかしいアタシは小さく首を振る。
そして……。
「これ……」
持っていた袋の中から一つラッピングしてあるものを取り出す。
それは誰にあげるでもないのに、なぜかずっと大切に今日一日中持っていたチョコ。
「市販のもの……なので……不味くはない……はずですから……、欲しければあげますよ」
こういうところが可愛くない。
素直に渡せないアタシ。
でも……。
「うん、欲しい!蛍ちゃんありがとう!」
どうしてこの人は喜んでくれるんだろう……。
本当にバカみたい。
「あっ、でも俺女の子からのプレゼントは手作り派だから〜、来年はよろしくね〜!」
パチンとウィンクをしていつもの調子に戻った先輩。
「っ!!、知りませんっ!帰ります!」
「え〜!待ってよ〜!」
後ろでアタシを呼ぶ松岡先輩の声。
いつもの軽い調子の声。
なのに今はイライラがどこかに消えてしまっている。
少しのことでこんなにイライラしたりそれが治ったりするアタシも、相当バカ。
部活が終わり、libertyの部室に集まったのもほんの少し。
俺達はいつもより早く部室から帰路へと向かった。
手には女の子達からたくさんもらったバレンタインプレゼント達。
まさに男の勲章。
家に帰って自室でそれ達を机の上に置くと、置き切れないほどの量。
モテる男は大変だ〜、なんて嬉々としてそれを見る。
でもすぐに目線はある一つのチョコへ。
女の子からのプレゼントは手作り派の俺へのプレゼントの中、唯一の市販のチョコ。
手作り派でわざわざ女の子達にあれがいいとかこれがいいとか注文したのに……。
「ま〜さかこれが一番嬉しいなんてね〜」
手作り派を推奨している分際で何てことだと自分に驚きが生まれる。
でも、どんなにいろいろ思っても、どうしても蛍ちゃんからのチョコが一番嬉しいって思っちゃうんだ。
それは、ツンデレなあの子が見せた素直な姿を可愛いと思ったからなのか……。
理由はわからない。
だけどまあ、それでも今はいいかな。
俺にとって最高な日であるバレンタインデー。
だけど今年のバレンタインデーは、今までと比べものにならないほどの幸福感に満ち溢れた特別な日。
ラッピングを解いて一粒口の中に放り込むと、市販のチョコなのに、まるで食べたことのないような甘い味がした。