校舎に甘い匂いが漂う季節。
それは女の子達にとって緊張の季節でもある。
でもそれが終わりかけの放課後、部活の時間。
調理室の窓から見える外は真っ白な雪景色で、外の部活の人達が雪掻きをしているのが目に入る。
その後部活をするなんて、体力あるなぁ、なんて。
調理部は今日チョコレート使ったお菓子を好きなように作っていいということで、簡単なもののため、いつも以上に早く活動を終えた。
私は特にすることもなく暇なため、暖房が効いた温かい調理室で一人、余った材料を使って別のお菓子を作っていた。
他のみんなはどうやら渡したい相手に出来たばかりのチョコ達を渡しに行ったみたい。
「手作りチョコ……か……」
自分でそう呟いた言葉に、スッと気分が沈む。
「まあ、受け取ってもらえないよりはいいよね」
無理矢理自分を納得させ、私は生地を流し込んだカップをオーブンに入れた。
そのとき、大きな音を立てて調理室のドアが開いた。
そのことに驚いて急いでドアのほうへと視線を向けると……。
「見つけたっ……瑠美ちゃん」
「長坂先輩!?」
そこには大きく肩を上下させて息を整える長坂先輩。
今の今まで頭に浮かべていた人の登場に、私は動揺する。
そんな私のことなどお構いなしに、早々と息を整え終えた先輩はツカツカとこちらに近付いてきた。
そして……。
「これ、どういうこと」
目の前にバッと何かを突き付けながら、怒ったような低い声でそう言った。
「これは……」
突き付けられたもの、それは私がそっと先輩の紙袋の中に忍ばせておいた市販のチョコ。
名前なんて書いていない、先輩に見つからないように入れておいた、なのにどうして先輩がこれが私からのだって気付いてこうして突き付けているのかがわからない。
聞きたいことがたくさんある。
でも、私がそれ達を聞くより早く、先輩が口を開いた。
「何で市販のチョコ??、何で他のやつと同じように紙袋に入れてあるの??」
「えっ??」
怒った口調の先輩から言われた言葉。
先輩が怒っている理由が益々わからなくなる。
でも“早く”と言わんばかりの威圧感が怖くて、私はビクビクしながら言った。
「長坂先輩は……」
「何」
「手作りチョコも直接渡すのも、受け取らなくて……、市販のチョコを置いておくとかろうじて受け取ってもらえるって……」
「……誰に聞いたの」
「友達が、一つ上の部活の先輩から聞いたって……」
それを聞いたとき、初めは嘘だと思った。
だって先輩はいつも私の手作りのお菓子を笑顔で受け取ってくれるから。
でもその後も、いろんな人から同じ話を聞いた。
いつももらってくれていても、バレンタインデーはもらってくれないかもしれない。
だから私も市販のチョコを紙袋の中に忍ばせた。
きっとこれなら受け取ってもらえると思って……。
「ごっ、ごめんなさいっ」
知らないうちに私のだってバレていたらしいチョコ。
先輩はいらないのに無理矢理渡されたから怒っているんだ。
そう思って私は頭を下げて謝る。
「……いいよ、俺が悪いんだ」
いつも通りの口調に私はそっと頭を上げるて先輩の顔を見た。
「確かに俺はバレンタインなんて面倒だから嫌いだし、何が入っているのかもわからない手作りなんて食べない」
「………」
「でも……瑠美ちゃんのは別だから」
「えっ??」
驚いて先輩の目を見つめると、目が合った途端、長い前髪で目を隠されてしまった。
「今まで手作りのものたくさん直接渡してくれたのに、バレンタインに市販しかも直接渡さないなんて、そんなの無しでしょ」
「あの……それは……」
「だからっ……手作りのチョコ!直接渡してよ!」
赤みがかった頬でそんなことを言った先輩。
どうしてそんなことを言ってくれたのか、そしてどうして頬が赤く染まっているのか、知りたいことはたくさん。
だけどそれを今は聞けない。
だって、こんな照れて真っ赤な顔、上げられないから。
結局雪掻きだけで終えた部活には参加せずにlibertyの部室に行った。
早々に帰ることになって、みんな大荷物を持って帰るのが困難。
今日はあんまり話せていないのに、結局部室でも帰り道でもそんなに話をせずに別れた。
「ハル君の言う通りだったなぁ……」
家の前、玄関を開ける前に俺は立ち止まって一つだけ手に持っているお菓子に目を落とした。
それはついさっき瑠美ちゃんからもらった手作りのフォンダンショコラ。
ハル君が部活前に言った“勘違いされないといいな”という言葉。
あのときは意味がわからなかったけど、瑠美ちゃんからの話を聞いて理解した。
バレンタインなんて面倒だと思って言った言葉、それをどうやら瑠美ちゃんも真に受けたらしい。
どうしてだと怒ったけど、元凶は俺。
勘違いされたのは仕方のないことだった。
それでも、瑠美ちゃんが自分も他のやつ達と一緒だと思っていることに少なからずイラついたのは事実。
こんな感情ぶつけたって困惑させるだけだし、俺自身も何でこんなこと思うのかわからない。
だけど……、上手くは説明できないけど……、俺の中では確かに瑠美ちゃんは他の女子とは明らかに違うんだ。
そういうこと、俺が言うの苦手だって知ってるでしょ??
だからさ、ねぇ……。
ちゃんと顔上げて、見てよ俺を。
それで気付いてよ、瑠美ちゃん。
それは女の子達にとって緊張の季節でもある。
でもそれが終わりかけの放課後、部活の時間。
調理室の窓から見える外は真っ白な雪景色で、外の部活の人達が雪掻きをしているのが目に入る。
その後部活をするなんて、体力あるなぁ、なんて。
調理部は今日チョコレート使ったお菓子を好きなように作っていいということで、簡単なもののため、いつも以上に早く活動を終えた。
私は特にすることもなく暇なため、暖房が効いた温かい調理室で一人、余った材料を使って別のお菓子を作っていた。
他のみんなはどうやら渡したい相手に出来たばかりのチョコ達を渡しに行ったみたい。
「手作りチョコ……か……」
自分でそう呟いた言葉に、スッと気分が沈む。
「まあ、受け取ってもらえないよりはいいよね」
無理矢理自分を納得させ、私は生地を流し込んだカップをオーブンに入れた。
そのとき、大きな音を立てて調理室のドアが開いた。
そのことに驚いて急いでドアのほうへと視線を向けると……。
「見つけたっ……瑠美ちゃん」
「長坂先輩!?」
そこには大きく肩を上下させて息を整える長坂先輩。
今の今まで頭に浮かべていた人の登場に、私は動揺する。
そんな私のことなどお構いなしに、早々と息を整え終えた先輩はツカツカとこちらに近付いてきた。
そして……。
「これ、どういうこと」
目の前にバッと何かを突き付けながら、怒ったような低い声でそう言った。
「これは……」
突き付けられたもの、それは私がそっと先輩の紙袋の中に忍ばせておいた市販のチョコ。
名前なんて書いていない、先輩に見つからないように入れておいた、なのにどうして先輩がこれが私からのだって気付いてこうして突き付けているのかがわからない。
聞きたいことがたくさんある。
でも、私がそれ達を聞くより早く、先輩が口を開いた。
「何で市販のチョコ??、何で他のやつと同じように紙袋に入れてあるの??」
「えっ??」
怒った口調の先輩から言われた言葉。
先輩が怒っている理由が益々わからなくなる。
でも“早く”と言わんばかりの威圧感が怖くて、私はビクビクしながら言った。
「長坂先輩は……」
「何」
「手作りチョコも直接渡すのも、受け取らなくて……、市販のチョコを置いておくとかろうじて受け取ってもらえるって……」
「……誰に聞いたの」
「友達が、一つ上の部活の先輩から聞いたって……」
それを聞いたとき、初めは嘘だと思った。
だって先輩はいつも私の手作りのお菓子を笑顔で受け取ってくれるから。
でもその後も、いろんな人から同じ話を聞いた。
いつももらってくれていても、バレンタインデーはもらってくれないかもしれない。
だから私も市販のチョコを紙袋の中に忍ばせた。
きっとこれなら受け取ってもらえると思って……。
「ごっ、ごめんなさいっ」
知らないうちに私のだってバレていたらしいチョコ。
先輩はいらないのに無理矢理渡されたから怒っているんだ。
そう思って私は頭を下げて謝る。
「……いいよ、俺が悪いんだ」
いつも通りの口調に私はそっと頭を上げるて先輩の顔を見た。
「確かに俺はバレンタインなんて面倒だから嫌いだし、何が入っているのかもわからない手作りなんて食べない」
「………」
「でも……瑠美ちゃんのは別だから」
「えっ??」
驚いて先輩の目を見つめると、目が合った途端、長い前髪で目を隠されてしまった。
「今まで手作りのものたくさん直接渡してくれたのに、バレンタインに市販しかも直接渡さないなんて、そんなの無しでしょ」
「あの……それは……」
「だからっ……手作りのチョコ!直接渡してよ!」
赤みがかった頬でそんなことを言った先輩。
どうしてそんなことを言ってくれたのか、そしてどうして頬が赤く染まっているのか、知りたいことはたくさん。
だけどそれを今は聞けない。
だって、こんな照れて真っ赤な顔、上げられないから。
結局雪掻きだけで終えた部活には参加せずにlibertyの部室に行った。
早々に帰ることになって、みんな大荷物を持って帰るのが困難。
今日はあんまり話せていないのに、結局部室でも帰り道でもそんなに話をせずに別れた。
「ハル君の言う通りだったなぁ……」
家の前、玄関を開ける前に俺は立ち止まって一つだけ手に持っているお菓子に目を落とした。
それはついさっき瑠美ちゃんからもらった手作りのフォンダンショコラ。
ハル君が部活前に言った“勘違いされないといいな”という言葉。
あのときは意味がわからなかったけど、瑠美ちゃんからの話を聞いて理解した。
バレンタインなんて面倒だと思って言った言葉、それをどうやら瑠美ちゃんも真に受けたらしい。
どうしてだと怒ったけど、元凶は俺。
勘違いされたのは仕方のないことだった。
それでも、瑠美ちゃんが自分も他のやつ達と一緒だと思っていることに少なからずイラついたのは事実。
こんな感情ぶつけたって困惑させるだけだし、俺自身も何でこんなこと思うのかわからない。
だけど……、上手くは説明できないけど……、俺の中では確かに瑠美ちゃんは他の女子とは明らかに違うんだ。
そういうこと、俺が言うの苦手だって知ってるでしょ??
だからさ、ねぇ……。
ちゃんと顔上げて、見てよ俺を。
それで気付いてよ、瑠美ちゃん。
