今日は2月14日のバレンタインデー。
この日を心待ちにしていた女の子も少なくない、そんな特別な日。
いつもよりバスケ部に来たギャラリーの数が多い。
それは専ら岡本先輩と松岡先輩にチョコを渡しに来た人ばかり。
松岡先輩が女の子達に手を振ったりするのはいつものことだけど、いつもは無視をしている岡本先輩が同じように手を振るなんてどうしたんだろう??
「玲斗とセツ子バレンタインチョコの数で競い合いしてるからね〜」
そう不思議に思っていたあたしだったけど、松岡先輩があたしと同じように不思議がっていた部員にそんな話をしていた。
なるほど、だからか。
そう思ったのと同時に、何だか少し寂しい気持ちになった。
「俺にはくれねーの??」
部活終わり、岡本先輩を呼び止めたあたしは、先輩の家族へと作ったお菓子を渡した。
そのとき、受け取った先輩がそんなことを言った。
「えっ??」
「だから、伊吹からのやつ、俺にはくれねーの??」
正直驚いた。
まさか先輩からそんなことを言われるなんて。
だけどすぐに松岡先輩が言っていたことを思い出した。
「あんなにもらっていたんですから、あたしからのが一つ無いくらい、どうってことないですよ」
そうだ、岡本先輩は今、後藤先輩とバレンタインチョコの数で競い合いをしているんだった。
別にあたしのチョコが欲しいわけじゃないんだ。
ただ、数を稼ぐうちの一つにしかすぎない……。
岡本先輩は後藤先輩に勝ちたいだけ。
勝負事になると熱くなって、負けん気が強い先輩はとてもかっこいいと思う。
今回だってそうなはず。
なのに……。
いつものようにかっこいいと笑って見れないのはどうして??……。
“負けないように頑張ってくださいね”って言ってチョコを渡せないのはどうして??……。
他の人達と同じような数稼ぎになりたくないと思ってしまうのはどうして??……。
「何それ、どういう意味だよ」
そんなことを一人グルグル考えるあたしの頭上からそんな不思議そうな声が降ってきた。
見上げてみると、声以上に、その表情は心底不思議そうなものになっている。
あたしは逆にどうして先輩がそんなに不思議そうなのかがわからなくて、あたしのほうが首を傾げた。
「どういう意味って……」
「俺は伊吹からのチョコが欲しいと思った、だから俺にはくれねーのかって言ったんだよ」
「ですから、それはあたしからのが一つ無いくらいどうってことないですよって」
「だからそれが意味わかんねーんだよ」
再度同じことを言っても、岡本先輩は不思議そうにするだけ。
勝負事を途中放棄なんてしない岡本先輩が後藤先輩との勝負を忘れているとは考え難い。
それならどうして岡本先輩はそんなに不思議そうな顔をしているの??……。
「俺は伊吹からのチョコが欲しいんだって」
「ですから」
同じことの繰り返しで埒があかないと思い始めたとき。
「伊吹」
先輩の声がいつもの明るい声ではなく、真面目なトーンに下がった。
「“お前のが”欲しいんだ」
「っ!?」
ゆっくりと真剣に言われたそれに、あたしは驚いて目を見開く。
それはまるで、“数稼ぎに欲しいんじゃない”と言ってくれているみたいに聞こえて、嫌な気持ちが溶かされていくのがわかった。
岡本先輩がどうしてそんなことを真剣に言ってくれたのかはわからない。
それでも……。
「本当は先輩の分も作ってあったんです」
ちゃんと、渡したい人に渡すことができたことを嬉しく思った。
部活終わり、libertyの部室に一旦集まった俺達もそろそろ帰ろうかと校舎から出た。
みんな朝より大荷物になっていて、そんでそれは俺も同じ。
たぶん紙袋の下のほうのやつとかは潰れたりしているんだろうなぁ、なんてどうでもいいことのように考える。
だって正直どうでもいいんだ。
バレンタインチョコ獲得数対決は僅差で俺の勝利で終えた。
瀬那と違って後輩に知り合いいるからな俺。
でもまあ、正直瀬那との勝負に勝ったことよりも嬉しいことがあった。
それは他のやつ達からもらったものが一緒くたになって形が崩れている紙袋の中のチョコ達ではなく、潰れないようにとポケットにしまっている伊吹からのチョコ。
数稼ぎに欲しいわけじゃなく、なぜかどうしても欲しかったもの。
「“本当は先輩の分も作ってあったんです”か……」
そう言って柔らかく笑った伊吹。
それが何かよくわかんねーけど、見ているだけで心臓が苦しくなった。
それと同時に何か口元が緩んだ。
勝負のために受け取ったチョコ達で勝利を収めた。
だけどそれより何より、ポケットの中のチョコが一番嬉しかったんだ。
帰宅後、学校の女子や野球のチームメイトの母親や姉からもらったというチョコが、エナメルバッグのファスナーが閉じないほど詰め込まれていたり、紙袋をいくつも提げて帰ってきた弟の太陽にバレンタインチョコ獲得数が負けたことはまた別の話。
この日を心待ちにしていた女の子も少なくない、そんな特別な日。
いつもよりバスケ部に来たギャラリーの数が多い。
それは専ら岡本先輩と松岡先輩にチョコを渡しに来た人ばかり。
松岡先輩が女の子達に手を振ったりするのはいつものことだけど、いつもは無視をしている岡本先輩が同じように手を振るなんてどうしたんだろう??
「玲斗とセツ子バレンタインチョコの数で競い合いしてるからね〜」
そう不思議に思っていたあたしだったけど、松岡先輩があたしと同じように不思議がっていた部員にそんな話をしていた。
なるほど、だからか。
そう思ったのと同時に、何だか少し寂しい気持ちになった。
「俺にはくれねーの??」
部活終わり、岡本先輩を呼び止めたあたしは、先輩の家族へと作ったお菓子を渡した。
そのとき、受け取った先輩がそんなことを言った。
「えっ??」
「だから、伊吹からのやつ、俺にはくれねーの??」
正直驚いた。
まさか先輩からそんなことを言われるなんて。
だけどすぐに松岡先輩が言っていたことを思い出した。
「あんなにもらっていたんですから、あたしからのが一つ無いくらい、どうってことないですよ」
そうだ、岡本先輩は今、後藤先輩とバレンタインチョコの数で競い合いをしているんだった。
別にあたしのチョコが欲しいわけじゃないんだ。
ただ、数を稼ぐうちの一つにしかすぎない……。
岡本先輩は後藤先輩に勝ちたいだけ。
勝負事になると熱くなって、負けん気が強い先輩はとてもかっこいいと思う。
今回だってそうなはず。
なのに……。
いつものようにかっこいいと笑って見れないのはどうして??……。
“負けないように頑張ってくださいね”って言ってチョコを渡せないのはどうして??……。
他の人達と同じような数稼ぎになりたくないと思ってしまうのはどうして??……。
「何それ、どういう意味だよ」
そんなことを一人グルグル考えるあたしの頭上からそんな不思議そうな声が降ってきた。
見上げてみると、声以上に、その表情は心底不思議そうなものになっている。
あたしは逆にどうして先輩がそんなに不思議そうなのかがわからなくて、あたしのほうが首を傾げた。
「どういう意味って……」
「俺は伊吹からのチョコが欲しいと思った、だから俺にはくれねーのかって言ったんだよ」
「ですから、それはあたしからのが一つ無いくらいどうってことないですよって」
「だからそれが意味わかんねーんだよ」
再度同じことを言っても、岡本先輩は不思議そうにするだけ。
勝負事を途中放棄なんてしない岡本先輩が後藤先輩との勝負を忘れているとは考え難い。
それならどうして岡本先輩はそんなに不思議そうな顔をしているの??……。
「俺は伊吹からのチョコが欲しいんだって」
「ですから」
同じことの繰り返しで埒があかないと思い始めたとき。
「伊吹」
先輩の声がいつもの明るい声ではなく、真面目なトーンに下がった。
「“お前のが”欲しいんだ」
「っ!?」
ゆっくりと真剣に言われたそれに、あたしは驚いて目を見開く。
それはまるで、“数稼ぎに欲しいんじゃない”と言ってくれているみたいに聞こえて、嫌な気持ちが溶かされていくのがわかった。
岡本先輩がどうしてそんなことを真剣に言ってくれたのかはわからない。
それでも……。
「本当は先輩の分も作ってあったんです」
ちゃんと、渡したい人に渡すことができたことを嬉しく思った。
部活終わり、libertyの部室に一旦集まった俺達もそろそろ帰ろうかと校舎から出た。
みんな朝より大荷物になっていて、そんでそれは俺も同じ。
たぶん紙袋の下のほうのやつとかは潰れたりしているんだろうなぁ、なんてどうでもいいことのように考える。
だって正直どうでもいいんだ。
バレンタインチョコ獲得数対決は僅差で俺の勝利で終えた。
瀬那と違って後輩に知り合いいるからな俺。
でもまあ、正直瀬那との勝負に勝ったことよりも嬉しいことがあった。
それは他のやつ達からもらったものが一緒くたになって形が崩れている紙袋の中のチョコ達ではなく、潰れないようにとポケットにしまっている伊吹からのチョコ。
数稼ぎに欲しいわけじゃなく、なぜかどうしても欲しかったもの。
「“本当は先輩の分も作ってあったんです”か……」
そう言って柔らかく笑った伊吹。
それが何かよくわかんねーけど、見ているだけで心臓が苦しくなった。
それと同時に何か口元が緩んだ。
勝負のために受け取ったチョコ達で勝利を収めた。
だけどそれより何より、ポケットの中のチョコが一番嬉しかったんだ。
帰宅後、学校の女子や野球のチームメイトの母親や姉からもらったというチョコが、エナメルバッグのファスナーが閉じないほど詰め込まれていたり、紙袋をいくつも提げて帰ってきた弟の太陽にバレンタインチョコ獲得数が負けたことはまた別の話。