「紬が明日俺にチョコくれるって言ってたんだよ、超可愛くね??、紬ももうバレンタインとかわかる歳になったんだよなー」


放課後、いつものようにそれぞれの部活を終えたメンバーがlibertyの部室に集まった。

ボクは鉛筆で落書き程度に絵を描き始めた。

最初は落書き程度だったものも、しばらく描き続けるとだんだん真剣に描くようになっていく。

何となく始めた絵だったけど、最後まで完成させたいと思った。

なのに、そんなボクの気持ちなど無視をして、レイは話し続けた。

正直どうでもいい話を。

絵を早く完成させたくて、レイの話は今はいいと言うのに、そんな呆れ顔も気付かずに自慢話を繰り返す。

妹が可愛いのは充分に伝わったというのに、レイはボクに誇らしげな笑みを向けてくる。

羨ましいだろ??、そう何度も繰り返され、さすがにボクも嫌味の一つでも、そう思いボクはずっと閉じていた口を開いた。


「あーソウダネ、可愛い可愛い妹の紬ちゃんが家族チョコで“お兄ちゃん”にくれるなんてよかったね、まあでも女の子の成長なんて早いから、すぐに本命チョコを“好きな人”にあげる日が来るんだろうねー」


はいはい、これでこの話は終わり。

そう無理矢理区切りを付けるように、ボクはカナデ仕込みの嫌味100%なニヤニヤ笑みを向けて言ってやった。

これでようやく絵の続きが描ける。


「去年はボクのほうが多かった!」


「その前は俺だっただろ!」


「その前の前はボクだった!」


「その前の前の前は俺だった!」


そう思っていたのに、いつの間に話が飛んだのか、気付けばボク達は歴代バレンタインチョコ獲得数対決をしていた。

バレンタインという括り以外、どこからどうこんな話になったのかはわからない。

だけど売り言葉に買い言葉、ボクとレイはいがみ合う。


「上等じゃねーか!、お前には負けねー!」


「ボクだって負けないよ!」


そしていつの間にまたこんなことになったのか、ボク達は今年のバレンタインチョコ獲得数対決を本気で行うことに。

今までバレンタインデーなんて興味がなかったやつ達とは思えないボク達の真剣さ。

正直今年もバレンタインデーやチョコ自体は関係なく、ただお互い勝負事には負けられないたちであるというだけの話。

こうして外には雪が散らつく中、ボク達の戦いに火蓋が切って落とされた。




翌日、昨日の雪は溶けるどころか積もったまま。

ケンカをしたわけじゃないけど今は敵であるレイと一緒に登校というのはどうかと思う、たぶんレイもそう思っているだろう。

だからボク達は今日は別々に登校。

それにしても自転車で雪の上走るのって転びそうになるんだけど。


「後藤君バレンタインのチョコ!」


「瀬那君私のも受け取ってよー!」


「後藤君こっちも!」


自転車置き場に自転車を置いたと同時にいろんな女の子達がラッピングされたお菓子を渡してくれる。

いろんな学年の人がいるけど、1年生の姿はない。

そうだ、ボク後輩に怖がられてるんだ。

その点レイは後輩にも好かれるタイプだから、この勝負、ボク結構不利じゃね??


「ありがとう、すごく美味しそうだね」


でも勝負事に負けるなんて……、しかも相手がレイともなれば負けるなんてボクのプライドに反する。

不利だとしても絶対に勝つため、旅館でしている営業スマイルを繰り出しながら礼を言う。


教室に入っても次から次にバレンタインチョコを渡しに来る子がいる。

他のメンバーはどうかなと軽く辺りを見渡すと、それぞれ女の子達に囲まれて身動きが取れない四人の姿。

今年もまた初会話は放課後になりそうだな。

頭の中でそんなことを考えつつ、ボクはお菓子を受け取り礼を言う。




放課後、教室の窓から外を見るといつもグラウンドを駆け回っている野球部やサッカー部、ラグビー部とかがいない。

どうやら雪のせいで部活は中止になったみたいだ。

放課後もなおお菓子を渡してくれる女の子達からのバレンタインプレゼントを全て受け取り、ようやくその波が去ってから教室を出た。

部活がある四人だけじゃなく、クラスのやつはもう全員いなくて、残っているのはどうやらボクだけみたい。




部活終了間際の時間。

ボクはフラフラと美術室に向かった。


「それじゃあお疲れ様です」


「お疲れ様でーす」


すぐ近くまで来ると、荷物を手に美術室から出て行く部員が見えた。

あー、今日はどうやら遅かったみたいだ。

もう部活終わったんだ。

そうガッカリしながらも何となく足は美術室へ向かう。

灯りが点いているから誰かはいるんだろうけど、もう帰る準備してるよなぁ。

そう思いながらドアの中を覗き込むと……。


「あれ??後藤先輩」


「トナミちゃん!」


そこには未だ筆を持って帰る気配のないトナミちゃんが。


「後藤先輩どうしたんですか??」


「いや、ちょっとヒマで……。トナミちゃんこそ、みんな帰ったのに一人でどうしたの」


「区切りがいいところまでやっちゃいたくて、でももうすぐできます」


屈託のない笑みを浮かべるトナミちゃんに、ボクも自然と笑みを浮かべる。


「そういえば、トナミちゃんは誰かにチョコあげたりした??」


トナミちゃんが区切りのいいところまで仕上げ、片付けに入ったとき、それを手伝いながらボクは雑談程度にそんな話を振った。


「………」


「トナミちゃん??……!?」


はずなのに……。

黙ってしまったトナミちゃんの顔をチラリと見ると、目をまん丸にしてこちらを見るトナミちゃん。

まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったみたい。

この反応……、もしかして誰かに本命チョコというものを渡したのか??……。

そりゃそうか、トナミちゃんだって女の子だ、好きな人にチョコくらい……。


「ねえ、トナミちゃん」


頭ではわかってる。

なのに口が勝手に動く。


「誰に、あげたの??」


どうしてそれを知りたいのかわからない。

だけどどうしてもこれを知りたいんだ。