ボクはゆっくりと目を閉じ、そして再びそれを開いてから……。


「もう二度としないって思ってた、本気でずっとそう思ってた。だけどボクはボクの意思で今ここにいる。立ち上がりたい。今がそのチャンスだと思っている。過去のことについてごめんもありがとうも、もう二度と言わない。ただ一つだけ最後にお願いを聞いてほしい」


すっと息を吸い混んで、ボクは四人を見つめ返す。


「絶対勝つ、そのために一緒に闘ってくれ」


拳を前に突き出したボクに四人はニッと笑みを浮かべた。


「行くぞ!」


前に突き出した拳を上に挙げて高らかに叫ぶと、四人も拳を空に向けて突き上げた。

校庭に四つの叫び声が響き渡る。



試合開始のホイッスル。

それと共にキックオフ。

ハーフタイムは無く、30分という前半だけにしても15分短い時間しかない。

その間に1点でも多く点数を取らなければいけない。

ボールがあちこちに移動し、いろんな人が入り乱れる。


「っ」


そこにボクも一歩踏み出そうとした瞬間、足が鉛のように重くなる。


「うっ……」


せり上がる吐き気に咄嗟に口元を片手で覆う。


「くそっ……」


自分で選んでここにいる。

自分で決めてここに来た。

もう二度としないと誓った。

でもボクは立ち上がるためにその誓いを自ら切り裂いた。

なのに何で身体は言うことを聞かない。

動けと頭では命令を送っているのにっ。

どうしてだっ。


「動けよっ……自分の身体だろっ……」


ボールを追いかけるみんなの姿が遠くに見える。

はたから見ればなぜこんなところでボクだけ立ち尽くしているのかと疑問に思われるだろう。


「セナ!!」


「瀬那!!」


「瀬那!!」


「セツ子!!」


libertyのメンバーの呼ぶ声が聞こえる。

なのにそこに足が進まない。

何度もボクの名前を叫んでくれている。

なのにボクの身体が動かない。


「っざけんな!……動けよっ!……、ボクはっ!……」


「後藤先輩っ!!」


そのとき、観覧席から聞こえた声。


「!!」


そこには泣きそうな顔でこちらに駆け寄ろうとしている砺波ちゃん。

でもそれを傍にいる四人の友達に止められている。

それでもこちらに来ようと必死にもがいている。

その手には、ボクが言ったようにスケッチブックとペンが握られている。


「……ははっ……そうだよ、ボクは何のために……」


そう呟いた瞬間、スッと身体が軽くなった。

せり上がってきていた吐き気もどこかへ行った。

一歩一歩足を前に出すと、ちゃんと進んでいる。

ゆっくり歩いていたのが、だんだんと加速して、気付いたら走っていた。

目の前にはボールを持って独走している相手チームの選手。

ボクはそこに向けて飛び込んだ。

突然ボクが現れたことにより焦ったのか、一瞬ボールの軌道が揺らいだ。

それを見逃さず、ボクはそのボールを奪い取る。

そして独走してきていた道を、今度は逆走する形でボクはボールを蹴りながら進む。

サイドから滑り込んでボールを奪おうとしてきた相手を、足を使ってボールをヒョイと上に上げて避ける。


「リョウキチ!!」


そしてその勢いのまま、近くにいるリョウキチにパスを回す。

今のlibertyのみんながいる立ち位置、そして相手チームの立ち位置。

ボクの足の速度、そして向かう場所への距離。

ボクの頭に最高のシチュエーションが完成する。

それにニッと笑い、みんながボールを追う中、ボクだけボールを追うことはせず、向かうべき場所へと駆け抜ける。

きっとlibertyのみんなならやってくれると信じて。


駆けて行く中横目で見ると、リョウキチはナルさんへとパスを回し、ナルさんはカナデへ、そしてカナデはレイへと回した。

ちょうどレイにパスが回った瞬間、ボクは目的地へと到着。


「レイっ!!」


バッと手を挙げ名前を叫んだそのとき、カチリとピースが嵌まったような音がボクの中に聞こえた。

レイの足からボールが離れ、それは勢いよくボクのほうへと来る。

相手からのディフェンスを交わしてボールを足に収めると、そのままゴールへ向けて一直線。


今、いける、今、決まる。


足にグッと力を込めて、ボールに意識を集中させる。


「行けーー!!」


四つの叫び声を背に受けて、ボクの足はボールを力強く蹴った。

ゴールキーパーが飛ぶ。

ボールを追いかけて手を伸ばす。

でもそれは、ネットの中へと吸い込まれた。


「っしゃあぁーー!!」


グッと握った拳を空に突き上げると、後ろから誰かが飛びついて来た重みを感じた。


「お前やっぱすげーよ!!」


「セツ子かっこよすぎかよ!!」


「セナ本当にすごいよ!!」


「瀬那天才だ!!」


その声とともに試合終了のホイッスル。

30分という短い時間は、一瞬で過ぎ去った。

肩で息を整える。

鼓動が速い。

身体中がゾクゾクとする。

足がビリビリする。


ああ……、この感じ……。

ずっと忘れていたこの感覚……。

ボクはずっとこれが好きだったんだ……。

これがボクの全てだったんだ……。


「そこの五人、整列を……って後藤!?どこ行くんだ!?」


審判をしていた先生の声が聞こえた瞬間、背中をポンと四つの手に押された感覚。

ボクはそれに従うように駆け出す。

先生からの怒鳴り声と、同じチームのやつと相手チームのやつの呼び止める声。

それを気にすることなく、ボクが向かったのは観覧席。

そこで見ていた人達もみんな驚きの声を出している。

だけどある一人のところへ、ボクは駆け寄った。