砺波ちゃんの手を掴んだまま元来た道を帰って行くと、後ろでは、突然のことに戸惑っている四人の女の子の声。
砺波ちゃんの友達の声だ。
でもそれを、上手く誤魔化してくれる四人の男の声。
ボクの友達の声だ。
「(ごめん、今日だけいろいろワガママ聞いてくれ。後で借りは返すから。よろしく)」
四人に心の中で感謝と頼み事をし、ボクは振り返らずそのまま進んだ。
ヘタに教室なんかに入れば確実に校舎内にいる先生に怒られる。
そう思ったボクは砺波ちゃんをlibertyの部室に連れてきた。
ここならボク達以外が来ることはないから大丈夫だ。
「ごめんね急に」
「いいえ、でも突然どうしたんですか??」
向かいのソファーに座らせて、まず謝罪をすると、砺波ちゃんは首を横に振ってから、不思議そうに首を傾げた。
それにボクは微笑んで口を開く。
「砺波ちゃん、絵が描けなくなってるよね??」
「!!?」
その言葉に笑顔だった砺波ちゃんの表情が、まるで冷水を浴びせられたようなものに変わった。
知っているなら、わざわざこんなことを言ってあげなくてもいいのでは、と思われるだろう。
でもボクは敢えてこれを言う。
それは意地悪したいとか、そういう嫌な気持ちからじゃない。
どうしても、立ち上がってほしいがためのものだ。
「もうすぐ……二週間後だったっけ??、コンクールがあるよね??、なのに砺波ちゃん未だにキャンバスの上は真っ白で、何も描けていないよね」
ボクの言葉にどんどん砺波ちゃんの表情は歪み、今にも泣き出しそうなのを必死に下唇を噛み締めて我慢しているものへと変わる。
「描きたいって思っているのに、挫折して、何も描けないんだよね??」
「どうしてっ……知って……、わかってるならっ……そんなことっ……、意地悪ですっ先輩っ……」
いつ泣いてもおかしくないのに、砺波ちゃんはグッと顔を上げ、涙を必死に堪えた顔でボクを睨み付ける。
ああ、本当にこの子は強い。
こんな状況でも泣かないこの子だから、ボクは君を救う手助けをしたいと思ったんだ。
こんなボクでも、君を救う手助けを一つだけ、できるんだ……。
ゆっくりと深呼吸をした後、じっと砺波ちゃんの目を見て、ボクは言わなければいけない言葉を口にした。
「ボクは、君とは違って逃げたんだ」
「えっ??……」
ボクは全てを話した。
サッカーをいつからどうして始めたのか、ライバルがどんな子達だったのか、どうして中学2年の冬で辞めたのか、ボクはどんな風に挫折して絶望して逃げたのか、その後どうしたのか、つい最近ライバルだった二人に会ったことも……。
ボクの17年間の人生を全て語った。
長い長い物語り。
決して止まることなく、ノンストップで話し続けた。
でも焦って早口になることはなく、落ち着いてゆっくり、一言一句漏らさないように全て。
最初は突然何の話かと不思議そうにしていた砺波ちゃんだったけど、気付けば、真剣にボクの言葉に耳を傾けてくれていた。
一言も声を発することなく、ずっと集中力を絶やすことなく。
そして全てを話し終えたとき、しんと静まり返った。
でもそれは一瞬のことで、ボクは一息つくと、再び口を開いた。
「どうして今、砺波ちゃんにこの話をしたのかわかる??」
その質問に砺波ちゃんは黙って首を横に振る。
「どうしても、この話を踏まえた上でじゃないとダメだと思ったんだ」
「どういう意味ですか??……」
「紙とペン」
「えっ??」
「それ持って応援に来て」
それだけ言うと、ボクは意味がわからないという表情をする砺波ちゃんの手を引きlibertyの部室から出た。
そして砺波ちゃんの教室まで連れて来た。
「先輩、さっきのどういう意味ですか??」
有無を言わさず連れて来たものだから、ようやく立ち止まったのを見計らって、砺波ちゃんはボクに詰め寄る。
「砺波ちゃん、約束だから。ちゃんと、ボクを見てね」
でもボクはそれだけ言うと、さっさとその場を後にした。
そして、いよいよそのときが……。
「瀬那」
ベンチで気合を入れる相手チームを見ていると、後ろからそう声をかけられた。
振り向くと、そこにはlibertyの四人。
「お前も知ってる通り、俺めちゃくちゃ負けず嫌いだからな……、特にスポーツでは」
レイが拳を前に突き出した。
「俺かっこ悪いのはNGなんだよね〜……、だから負けるなんてかっこ悪いことはしないから」
ナルさんが拳を前に突き出した。
「楽しめればいいか、なんていうのは今日は無し……、本気で勝つためだけにやるから」
リョウキチが拳を前に突き出した。
「寒いのに走り回るなんてめんどくさい……、でも今日はそんなことを本気でやりたい気分だから」
カナデが拳を前に突き出した。
そして四人がじっとボクを見つめる。
砺波ちゃんの友達の声だ。
でもそれを、上手く誤魔化してくれる四人の男の声。
ボクの友達の声だ。
「(ごめん、今日だけいろいろワガママ聞いてくれ。後で借りは返すから。よろしく)」
四人に心の中で感謝と頼み事をし、ボクは振り返らずそのまま進んだ。
ヘタに教室なんかに入れば確実に校舎内にいる先生に怒られる。
そう思ったボクは砺波ちゃんをlibertyの部室に連れてきた。
ここならボク達以外が来ることはないから大丈夫だ。
「ごめんね急に」
「いいえ、でも突然どうしたんですか??」
向かいのソファーに座らせて、まず謝罪をすると、砺波ちゃんは首を横に振ってから、不思議そうに首を傾げた。
それにボクは微笑んで口を開く。
「砺波ちゃん、絵が描けなくなってるよね??」
「!!?」
その言葉に笑顔だった砺波ちゃんの表情が、まるで冷水を浴びせられたようなものに変わった。
知っているなら、わざわざこんなことを言ってあげなくてもいいのでは、と思われるだろう。
でもボクは敢えてこれを言う。
それは意地悪したいとか、そういう嫌な気持ちからじゃない。
どうしても、立ち上がってほしいがためのものだ。
「もうすぐ……二週間後だったっけ??、コンクールがあるよね??、なのに砺波ちゃん未だにキャンバスの上は真っ白で、何も描けていないよね」
ボクの言葉にどんどん砺波ちゃんの表情は歪み、今にも泣き出しそうなのを必死に下唇を噛み締めて我慢しているものへと変わる。
「描きたいって思っているのに、挫折して、何も描けないんだよね??」
「どうしてっ……知って……、わかってるならっ……そんなことっ……、意地悪ですっ先輩っ……」
いつ泣いてもおかしくないのに、砺波ちゃんはグッと顔を上げ、涙を必死に堪えた顔でボクを睨み付ける。
ああ、本当にこの子は強い。
こんな状況でも泣かないこの子だから、ボクは君を救う手助けをしたいと思ったんだ。
こんなボクでも、君を救う手助けを一つだけ、できるんだ……。
ゆっくりと深呼吸をした後、じっと砺波ちゃんの目を見て、ボクは言わなければいけない言葉を口にした。
「ボクは、君とは違って逃げたんだ」
「えっ??……」
ボクは全てを話した。
サッカーをいつからどうして始めたのか、ライバルがどんな子達だったのか、どうして中学2年の冬で辞めたのか、ボクはどんな風に挫折して絶望して逃げたのか、その後どうしたのか、つい最近ライバルだった二人に会ったことも……。
ボクの17年間の人生を全て語った。
長い長い物語り。
決して止まることなく、ノンストップで話し続けた。
でも焦って早口になることはなく、落ち着いてゆっくり、一言一句漏らさないように全て。
最初は突然何の話かと不思議そうにしていた砺波ちゃんだったけど、気付けば、真剣にボクの言葉に耳を傾けてくれていた。
一言も声を発することなく、ずっと集中力を絶やすことなく。
そして全てを話し終えたとき、しんと静まり返った。
でもそれは一瞬のことで、ボクは一息つくと、再び口を開いた。
「どうして今、砺波ちゃんにこの話をしたのかわかる??」
その質問に砺波ちゃんは黙って首を横に振る。
「どうしても、この話を踏まえた上でじゃないとダメだと思ったんだ」
「どういう意味ですか??……」
「紙とペン」
「えっ??」
「それ持って応援に来て」
それだけ言うと、ボクは意味がわからないという表情をする砺波ちゃんの手を引きlibertyの部室から出た。
そして砺波ちゃんの教室まで連れて来た。
「先輩、さっきのどういう意味ですか??」
有無を言わさず連れて来たものだから、ようやく立ち止まったのを見計らって、砺波ちゃんはボクに詰め寄る。
「砺波ちゃん、約束だから。ちゃんと、ボクを見てね」
でもボクはそれだけ言うと、さっさとその場を後にした。
そして、いよいよそのときが……。
「瀬那」
ベンチで気合を入れる相手チームを見ていると、後ろからそう声をかけられた。
振り向くと、そこにはlibertyの四人。
「お前も知ってる通り、俺めちゃくちゃ負けず嫌いだからな……、特にスポーツでは」
レイが拳を前に突き出した。
「俺かっこ悪いのはNGなんだよね〜……、だから負けるなんてかっこ悪いことはしないから」
ナルさんが拳を前に突き出した。
「楽しめればいいか、なんていうのは今日は無し……、本気で勝つためだけにやるから」
リョウキチが拳を前に突き出した。
「寒いのに走り回るなんてめんどくさい……、でも今日はそんなことを本気でやりたい気分だから」
カナデが拳を前に突き出した。
そして四人がじっとボクを見つめる。
