1月下旬、風は肌を裂くように冷たい。


「みんな、ごめん」


霧南指定の体操服を身に纏いボクの横を歩いている四人。

ボクがふとピタリと足を止めると、どうしたのかと振り返ってくる。

ボクが足を止めたことにより少し前に出た四人に、ボクは膝に手を付いて深く頭を下げる。


「何が??」


頭上から不思議そうなレイの声が聞こえる。


「ボクの都合にみんなを合わせることになって……」


一週間前、ボクはlibertyの部室でレイに言った。

ソフトボールからサッカーに変更したい、と。

正直レイは野球の経験があるから、本当はサッカーよりソフトボールのほうがいいはず。

リョウキチもカナデもナルみんも、サッカーにするなんて聞いたら、どうしたのかと思うに決まっている。


うちの学校は体育の授業でサッカーをすることはない。

そのため、libertyのメンバーがサッカーを経験したことがあるのは、ボクの知る限り中学の体育の授業のときに少しやったくらいだろう。

仮に小学校のときに経験したとしても、それも体育の授業だけだ。

中学のときのやつも、ボクがサッカーを辞める前にしただけで、その後ボクがサッカーを辞めると、四人もサッカーに一切触れなくなった。

つまり、libertyのメンバーはサッカーの経験が無いに等しい。

そしてボクもおよそ3年というブランクがあり、その間一切サッカーに触れてこなかったため、あの頃と同じように動ける可能性はほぼゼロだろう。

サッカー部はサッカーに出場できないとはいえ、中学までサッカーをしていたやつは出場できる。

そのため、他のクラスは元サッカー部を集中的に集め、完全に勝つ気でいる。

経験者が集うチームを相手に、経験があまり無いチームがボールを奪うことはできない。

正直、とんだ恥晒しになるだろう。

それをわかっている。

わかっていながら、ボクはボクの都合でみんなを巻き込んだ。

事情を察したレイは快く受け入れてくれ、事情を知らないはずのリョウキチとカナデとナルさんも、察してくれたように笑って頷いてくれた。

本当にボクはいい仲間に恵まれた。

感謝の気持ちでいっぱいだ。

だけど、申し訳ない気持ちでもいっぱいだ。

だからボクは四人にもう一度頭を下げる。

ごめん、全部ボクのためだけに。

ごめん……。


「ちょっと今の聞きました〜??」


「やぁねぇ、まるで悲劇のヒロインみたいなのぉ」


そんなボクの緊張感など蹴散らすように、頭上から聞こえたのは、なぜかおネェ口調のナルみんとレイの声。


「最近の若い子はす〜ぐこれよ〜」


「センチメンタルが受けると思ってるんじゃないのぉ??」


驚いて顔をあげると、二人は手を口元に当て、どこぞのおばちゃんみたいなポーズをとっている。


「ナルさん??レイ??」


二人のやりたいことも言葉もイマイチ理解ができなくて、ボクの頭の上にハテナマークが飛びまくる。

すると、二人はいきなり仁王立ちをした。


「“ボクのためにごめん”とか思っちゃってるわけ??」


「“ボクのせいでごめん”とか思っちゃってんのかよ??」


二人のその言葉はボクが考えていたことと見事に当たっていて、ボクは大きく目を見開く。


「何その反応、当たりって言いたいの〜??」


「ふざけんな、ムカつく」


「「死ね!」」


「えぇっ!?」


舌打ちとともに告げられた死刑宣告。

中指立ててキレた表情の二人。

ボクは意味がわからなくて戸惑うばかり。


「セナ、わかってないよ」


そんなボクに、リョウキチがクスクス笑った。


「わかってないってどういう意味??……」


「レイはどんなスポーツでも楽しいから関係無い。ナルはサッカーのほうが女の子が見に来るから。カナデはサッカーならサボっててもバレないから。ぼくはサッカーをあんまりやったことないから興味がある。ぼく達がセナの言葉を受けた理由はそれぞれ理由があるからだよ」


ニコリと笑ってそう説明したリョウキチ。

ボクはそれに再び大きく目を見開く。


「つまり、お前何か勘違いしてるみたいだけど、俺達は別にお前のために受けたわけじゃないから」


続くように、寒さで背中を丸めてポケットに手を突っ込んでいるカナデが言った。

真剣な表情をして、ボクをじっと見ながら。