ボクは何もできない。
だって挫折がどんなものかよくわかってるから。
「ごめん、今日は用事あるから帰るね」
そう言うと、ボクは早足に美術室を後にした。
挫折は本人に立ち上がる意思がない限り、立ち上がることは不可能。
もしこれで砺波ちゃんが諦めたとしたら、それがあの子の実力だったというだけの話。
ただ、それだけの……。
「ん??、今何か声が……」
外に剥き出しになっている渡り廊下を歩いていると、どこからか声がした。
この辺りは部活で使わない場所のはずなのに……。
「どうしてっ……」
「っ!!」
見渡していたボクは、そこにいる小さな女の子の姿を見つけた。
それは砺波ちゃん。
「どうして描けないのっ!!、どうして思い通りに描くことができないのっ!?」
ビリビリと破られた大量の紙がしゃがみ込む砺波ちゃんの周りに散らばっている。
苦しそうに叫んでいる、どうして、どうして、そう何度も。
おじいちゃんから聞いていたよりずっと苦しそうに見える。
きっとボクが知らなかっただけで、ずっと前からこうだったんだ。
その姿はいつもの明るい姿とは程遠く、あまりに痛々しくて、おじいちゃんに“放っておくほうがいい”みたいなことを言っておきながら、ボクは砺波ちゃんに声をかけようとした。
“どうしてそこまでたった一つのコンクールだけで必死になるの??、また次頑張ればいいじゃないか”
でもその言葉を……。
「描きたいよっ!!、少しでもたくさんっ!!、描き続けたいっ!!、それが私の軸だからっ!!」
ボクは飲み込んだ。
「よぉー、帰ってたんだな。さっきそこでカナとりょーすけに会ったけど、ナルと一緒に自販機に……」
「レイ……」
さっきまでの光景を頭に浮かべ、一人静かに考え込んでいると、いつの間にか部活を終えたレイがlibertyの部室に戻ってきた。
レイの話す言葉を遮って名前を呼べば、レイは“何だ??”と訝しげな顔をする。
「ボクのこと殴って」
「は??、何突然……、悪いけどそんな趣味……」
「とても綺麗な絵を描く子がいるんだ」
バカにしたように笑うレイに、ボクはゆっくりと口を開く。
するとレイはスッと真面目な顔をしてボクの話に耳を傾けてくれる。
「その子が何かあったからなのかわからないけど、挫折してる……、たぶん、気付かなかったけど、ずっと前から……。挫折してる、ボクと同じように。だけどボクとは違って必死に抜け出そうとしている」
「………」
「前にその子は言ったんだ、サッカーのようなスポーツを見ていると描きたい衝動に駆られるって!……。きっと彼女の挫折を知る人間が彼女のために動いてあげればあの子は挫折から抜け出せる!……。なのにボクはあの子に何も言わずにここに来たっ!、昔の自分のように挫折する子を目の前にしていたのにだっ!、ボクは逃げたんだっ!」
レイにしてもらいたいことはただ一つ、そのためにボクは訴え続ける。
そしてレイもボクがしてほしいと思っていることに気付き始めた。
「ボク達はお互いを救えない!!、だからボクはボク以外の四人に自分を救ってくれって言われても困る!!、だからボクも四人にそんなこと言わない!!、そんなおこがましいこと言えるわけがないっ!!、特にお前にはそんなこと言えないっ!!救ってくれなんて思っていない!!、だけど頼むっ!!一歩踏み出すための勇気をくれっ!!、ボクが一歩踏み出すためのっ!!……、レイっ!!一発本気で殴れっ!!」
最後の言葉を言った瞬間、額にガンッ!!と痛みが走った。
「っ!!?……バカか!?、レイも額痛いだろ!?」
瞬時に閉じた目を、再び開くと、そこには額を押さえて痛がるレイ。
こいつ今、頭突きしてきた。
痛いのはボクだけでいいのに何で……。
「俺はっ、バスケ部なんだよっ、手をケガしたら困るだけだっ、お前のためじゃないっ」
「レイ……」
そう言うと、レイはバッと顔を上げ、ボクの胸ぐらを掴んだ。
「お前がすげぇのは俺が一番知ってんだよ!!、だから前にお前のライバルだったやつ達に言われた言葉はめちゃくちゃ悔しかった!!マジで殴ろうかと思った!!、でもお前が逃げたのは事実だから!!」
「っ……」
本当は言いたくないような言葉をレイに言わせてしまっている。
ごめん、だけど頼む、協力してくれ。
そんなボクの気持ちをわかっているから、レイは続ける。
「俺も野球から逃げた!!やる意味ないって逃げていた!!、だけど今はそんなもん余裕でできる!!でもやらねーのは俺にバスケがあるからだ!!俺がバスケを見つけたからだ!!、でもお前は違う!!、まだ未練あるんだろう!?、やりたいって思っているんだろう!?、そんな夢にも、目の前で苦しんでいる子にも背中向けてるかっこわりぃクズは俺の幼なじみにはいないっ!!」
そう言うと、ゆっくりと手を離したレイは、上がった息を肩を上下しながら整えた。
ごめん、言いたくないこといっぱい言わせて……。
ごめん、額痛かったよな……。
ごめん、大声上げさせて……。
ごめん……、だけど……。
「ありがとう……レイ……」
おかげで一歩踏み出す決心が付いた。
「お前、こういうときだけ俺より男前で男気あるよな、ムカつく……。それで、お前どうしたいんだ??」
小さく呟いた後、ニッと笑ってボクに尋ねたレイ。
何を言いたいのかわかっているのに、ボクから言わせてくれようとする。
「何あれ、せ〜しゅ〜ん」
「男の友情、みたいな??」
「はぁ、暑苦しい」
扉の向こう側で三人がそんなことを言いながら笑みを浮かべていることなど知らず、ボクは目の前にいるレイと同じようにニッと笑って見せて……。
「後期球技大会は、ソフトボールからサッカーに変更だ」
だって挫折がどんなものかよくわかってるから。
「ごめん、今日は用事あるから帰るね」
そう言うと、ボクは早足に美術室を後にした。
挫折は本人に立ち上がる意思がない限り、立ち上がることは不可能。
もしこれで砺波ちゃんが諦めたとしたら、それがあの子の実力だったというだけの話。
ただ、それだけの……。
「ん??、今何か声が……」
外に剥き出しになっている渡り廊下を歩いていると、どこからか声がした。
この辺りは部活で使わない場所のはずなのに……。
「どうしてっ……」
「っ!!」
見渡していたボクは、そこにいる小さな女の子の姿を見つけた。
それは砺波ちゃん。
「どうして描けないのっ!!、どうして思い通りに描くことができないのっ!?」
ビリビリと破られた大量の紙がしゃがみ込む砺波ちゃんの周りに散らばっている。
苦しそうに叫んでいる、どうして、どうして、そう何度も。
おじいちゃんから聞いていたよりずっと苦しそうに見える。
きっとボクが知らなかっただけで、ずっと前からこうだったんだ。
その姿はいつもの明るい姿とは程遠く、あまりに痛々しくて、おじいちゃんに“放っておくほうがいい”みたいなことを言っておきながら、ボクは砺波ちゃんに声をかけようとした。
“どうしてそこまでたった一つのコンクールだけで必死になるの??、また次頑張ればいいじゃないか”
でもその言葉を……。
「描きたいよっ!!、少しでもたくさんっ!!、描き続けたいっ!!、それが私の軸だからっ!!」
ボクは飲み込んだ。
「よぉー、帰ってたんだな。さっきそこでカナとりょーすけに会ったけど、ナルと一緒に自販機に……」
「レイ……」
さっきまでの光景を頭に浮かべ、一人静かに考え込んでいると、いつの間にか部活を終えたレイがlibertyの部室に戻ってきた。
レイの話す言葉を遮って名前を呼べば、レイは“何だ??”と訝しげな顔をする。
「ボクのこと殴って」
「は??、何突然……、悪いけどそんな趣味……」
「とても綺麗な絵を描く子がいるんだ」
バカにしたように笑うレイに、ボクはゆっくりと口を開く。
するとレイはスッと真面目な顔をしてボクの話に耳を傾けてくれる。
「その子が何かあったからなのかわからないけど、挫折してる……、たぶん、気付かなかったけど、ずっと前から……。挫折してる、ボクと同じように。だけどボクとは違って必死に抜け出そうとしている」
「………」
「前にその子は言ったんだ、サッカーのようなスポーツを見ていると描きたい衝動に駆られるって!……。きっと彼女の挫折を知る人間が彼女のために動いてあげればあの子は挫折から抜け出せる!……。なのにボクはあの子に何も言わずにここに来たっ!、昔の自分のように挫折する子を目の前にしていたのにだっ!、ボクは逃げたんだっ!」
レイにしてもらいたいことはただ一つ、そのためにボクは訴え続ける。
そしてレイもボクがしてほしいと思っていることに気付き始めた。
「ボク達はお互いを救えない!!、だからボクはボク以外の四人に自分を救ってくれって言われても困る!!、だからボクも四人にそんなこと言わない!!、そんなおこがましいこと言えるわけがないっ!!、特にお前にはそんなこと言えないっ!!救ってくれなんて思っていない!!、だけど頼むっ!!一歩踏み出すための勇気をくれっ!!、ボクが一歩踏み出すためのっ!!……、レイっ!!一発本気で殴れっ!!」
最後の言葉を言った瞬間、額にガンッ!!と痛みが走った。
「っ!!?……バカか!?、レイも額痛いだろ!?」
瞬時に閉じた目を、再び開くと、そこには額を押さえて痛がるレイ。
こいつ今、頭突きしてきた。
痛いのはボクだけでいいのに何で……。
「俺はっ、バスケ部なんだよっ、手をケガしたら困るだけだっ、お前のためじゃないっ」
「レイ……」
そう言うと、レイはバッと顔を上げ、ボクの胸ぐらを掴んだ。
「お前がすげぇのは俺が一番知ってんだよ!!、だから前にお前のライバルだったやつ達に言われた言葉はめちゃくちゃ悔しかった!!マジで殴ろうかと思った!!、でもお前が逃げたのは事実だから!!」
「っ……」
本当は言いたくないような言葉をレイに言わせてしまっている。
ごめん、だけど頼む、協力してくれ。
そんなボクの気持ちをわかっているから、レイは続ける。
「俺も野球から逃げた!!やる意味ないって逃げていた!!、だけど今はそんなもん余裕でできる!!でもやらねーのは俺にバスケがあるからだ!!俺がバスケを見つけたからだ!!、でもお前は違う!!、まだ未練あるんだろう!?、やりたいって思っているんだろう!?、そんな夢にも、目の前で苦しんでいる子にも背中向けてるかっこわりぃクズは俺の幼なじみにはいないっ!!」
そう言うと、ゆっくりと手を離したレイは、上がった息を肩を上下しながら整えた。
ごめん、言いたくないこといっぱい言わせて……。
ごめん、額痛かったよな……。
ごめん、大声上げさせて……。
ごめん……、だけど……。
「ありがとう……レイ……」
おかげで一歩踏み出す決心が付いた。
「お前、こういうときだけ俺より男前で男気あるよな、ムカつく……。それで、お前どうしたいんだ??」
小さく呟いた後、ニッと笑ってボクに尋ねたレイ。
何を言いたいのかわかっているのに、ボクから言わせてくれようとする。
「何あれ、せ〜しゅ〜ん」
「男の友情、みたいな??」
「はぁ、暑苦しい」
扉の向こう側で三人がそんなことを言いながら笑みを浮かべていることなど知らず、ボクは目の前にいるレイと同じようにニッと笑って見せて……。
「後期球技大会は、ソフトボールからサッカーに変更だ」
