「今年から新しくサッカー部の監督になった。私が来たからには、今までの生半可な練習じゃ済ませない。全員、覚悟するように」
中学2年に上がってすぐ、ボク達のサッカー部にやってきた新しい監督。
冷たく変わらない表情はまるで能面。
そしてそれと釣り合う冷ややかな声と言葉。
そのとき、何となく背筋がヒヤリと冷たく感じた。
でも気のせいだろう、この人の持つ独特の雰囲気のせいだろう、とボクは背筋の寒さに首を振った。
けれどすぐにそれがボクの勘違いではないということが証明される。
それはある練習試合があった日。
相手は遠方から来た中学の人達。
そこは、県内でもトップクラスのサッカーチーム。
ボク達のチームは惜しくも1点差で負けた。
試合終了ギリギリで放たれたキックを防げず、ゴールされた。
そのままホイッスルは鳴り、試合終了。
事件はその後、反省会のときに起こった。
「お前はレギュラーから外れてもらう、以上だ」
指を差されたのは、その日ゴールキーパーを務めていた3年生の先輩。
それだけ言うと、監督はさっさとその場を後にしようとした。
もちろんそれに対し、その先輩を含め、メンバーは異論の声を上げる。
何の説明も無しにレギュラー落ちなんてあんまりだ、と。
それを聞いて振り返った監督が口にしたのは……。
「今意見したお前とお前、それからお前。全員レギュラーから外れろ、以上だ」
その後も、監督が作った新しい練習メニューはハードすぎて、それに耐え切れず体調不良やケガ、途中で足を止めてしまうやつがたくさん出た。
「お前、それからお前も、レギュラーから外れろ」
そのときも同じ言葉を放つ。
改善法などは一切言わず、ただ切り落としいくだけ。
極め付けに言われたのは……。
「私に意見を言うやつ、途中でくたばるやつ、気に入らないやつは全員レギュラーから外す。お前達は私の駒でしかない。私に有難くも動かさせてもらっているということを忘れるな」
ボク達のチームは一人の男によって支配された。
それでもボクは応援してくれる家族のため、幼なじみのレイのため、中学のときに仲良くなったリョウキチとカナデとナルさんのため。
誓いを交わしたライバル二人のため。
そして、サッカーを中心に回っている自分自身のため、ボクはどんなことにも耐え続け、ひたすらサッカーを続けた。
「後藤、お前はもっと上へ行きたいと望んでいるだろう??、お前に特別なメニューを課させてやる」
ボクにとってサッカーは酒やタバコや薬物と同じ。
「後藤、もっと上へ行けるだろ」
ハマってしまうと抜け出せなくて、目の前に吊り下げられると手を伸ばさずにはいられない。
「立て。そんなところで這いつくばるな」
もっと欲しい、失いたくない、手に入れていたい。
強くなりたい、上手くなりたい、負けたくない。
ボクは中毒者だ。
でも中毒者は自分の身の危険を感知できない。
それ故、気付いたときにはもう手遅れになっている。
「瀬那、お前最近おかしくないか??」
「大丈夫??身体引きずっているように見えるよ」
「いくら大会前だからって無茶しすぎじゃないの」
「そうそう、セツ子、ちゃんと休んでる??」
しかも中毒者は周りの言葉なんて……。
「大丈夫だよ」
聞きはしない。
そして全国大会。
次々に勝ち進み、準決勝を控えたボク達。
監督の特別メニューのおかげでライバルの二人のチームにも勝ち、県代表になれ、ここまで来れた。
凄いと思ったし感謝をした。
でも何だか頭が虚ろで、目もよく見えない。
足は軽いのか重いのかわからない。
「後藤、行け」
試合前のその言葉を最後に、もう記憶がない。
中学2年に上がってすぐ、ボク達のサッカー部にやってきた新しい監督。
冷たく変わらない表情はまるで能面。
そしてそれと釣り合う冷ややかな声と言葉。
そのとき、何となく背筋がヒヤリと冷たく感じた。
でも気のせいだろう、この人の持つ独特の雰囲気のせいだろう、とボクは背筋の寒さに首を振った。
けれどすぐにそれがボクの勘違いではないということが証明される。
それはある練習試合があった日。
相手は遠方から来た中学の人達。
そこは、県内でもトップクラスのサッカーチーム。
ボク達のチームは惜しくも1点差で負けた。
試合終了ギリギリで放たれたキックを防げず、ゴールされた。
そのままホイッスルは鳴り、試合終了。
事件はその後、反省会のときに起こった。
「お前はレギュラーから外れてもらう、以上だ」
指を差されたのは、その日ゴールキーパーを務めていた3年生の先輩。
それだけ言うと、監督はさっさとその場を後にしようとした。
もちろんそれに対し、その先輩を含め、メンバーは異論の声を上げる。
何の説明も無しにレギュラー落ちなんてあんまりだ、と。
それを聞いて振り返った監督が口にしたのは……。
「今意見したお前とお前、それからお前。全員レギュラーから外れろ、以上だ」
その後も、監督が作った新しい練習メニューはハードすぎて、それに耐え切れず体調不良やケガ、途中で足を止めてしまうやつがたくさん出た。
「お前、それからお前も、レギュラーから外れろ」
そのときも同じ言葉を放つ。
改善法などは一切言わず、ただ切り落としいくだけ。
極め付けに言われたのは……。
「私に意見を言うやつ、途中でくたばるやつ、気に入らないやつは全員レギュラーから外す。お前達は私の駒でしかない。私に有難くも動かさせてもらっているということを忘れるな」
ボク達のチームは一人の男によって支配された。
それでもボクは応援してくれる家族のため、幼なじみのレイのため、中学のときに仲良くなったリョウキチとカナデとナルさんのため。
誓いを交わしたライバル二人のため。
そして、サッカーを中心に回っている自分自身のため、ボクはどんなことにも耐え続け、ひたすらサッカーを続けた。
「後藤、お前はもっと上へ行きたいと望んでいるだろう??、お前に特別なメニューを課させてやる」
ボクにとってサッカーは酒やタバコや薬物と同じ。
「後藤、もっと上へ行けるだろ」
ハマってしまうと抜け出せなくて、目の前に吊り下げられると手を伸ばさずにはいられない。
「立て。そんなところで這いつくばるな」
もっと欲しい、失いたくない、手に入れていたい。
強くなりたい、上手くなりたい、負けたくない。
ボクは中毒者だ。
でも中毒者は自分の身の危険を感知できない。
それ故、気付いたときにはもう手遅れになっている。
「瀬那、お前最近おかしくないか??」
「大丈夫??身体引きずっているように見えるよ」
「いくら大会前だからって無茶しすぎじゃないの」
「そうそう、セツ子、ちゃんと休んでる??」
しかも中毒者は周りの言葉なんて……。
「大丈夫だよ」
聞きはしない。
そして全国大会。
次々に勝ち進み、準決勝を控えたボク達。
監督の特別メニューのおかげでライバルの二人のチームにも勝ち、県代表になれ、ここまで来れた。
凄いと思ったし感謝をした。
でも何だか頭が虚ろで、目もよく見えない。
足は軽いのか重いのかわからない。
「後藤、行け」
試合前のその言葉を最後に、もう記憶がない。