結局用事が何だったのかわからなかったし、部活終わりの約束もどうしてなのかわからなかった。

でも先輩の表情からして、何か悪いことでもなさそうだし、そんなに構えるようなことでもないのかな??

頭の中に様々な疑問が浮かぶけれど、いくら考えたって仕方ないと思い、あたしは部活終わりが来るのを大人しく待つことに。


「伊吹ちゃーん」


「あっはーい!」


そこまで考え、遠くでマネの先輩があたしを呼ぶ声に返事をし、洗い終わったボトルを籠に入れて呼ばれたほうへ向かった。



「伊吹ちゃん今日誕生日なんだって??」


「舞璃ちゃんおめでとう!」


そして部活終わり。

マネージャーみんなで更衣室でジャージから制服に着替えていると、マネの先輩達からそんな言葉をもらった。

こうしていろんな人からお祝いしてもらえることが嬉しくて、あたしはつい大きな声で“ありがとうございます!”と言っていた。



「蛍、ごめん、今日は先に帰ってて」


「うん、いいけど、どうしたの??」


制服にも着替え終わり、選手やマネージャーが帰っていく中、あたしは同じバスケ部マネージャーである蛍に断りを入れた。

それに対し、蛍は頷いてくれたけど、不思議そうに首を傾げる。


「それじゃあ代わりに今日は俺と帰ろうか〜」


「っ!?」


実は、と理由を話そうとしたとき、あたしが口を開くより早く、蛍の肩を抱き寄せたのは松岡先輩。

突然のことにあたし達は驚く。


「ちょっと!一人で帰れます!」


「まあまあ、冬になって日が落ちるのが早いんだから危ないでしょ〜??」


嫌がって松岡先輩の手から逃れようとする蛍。

でもそんなことお構いなしに、松岡先輩は蛍の肩を抱き寄せたまま行ってしまった。


「……あっ!、あたしも行かなきゃっ」


あまりにびっくりな光景に一瞬固まってしまっていたけど、すぐにハッとなり、あたしは約束の場所へと向かった。



「お疲れ伊吹」


「お疲れ様です!、すみませんお待たせしてしまって」


「いや、頼んだの俺の方だから」


すでにそこには岡本先輩がいて、お待たせしてしまったことを謝ると、いつもの眩しい笑みで手をヒラヒラと振ってくれた。


「えっ、と……、それで用事っていったい??……」


部活終わりにと言われて、ここまで尋ねずにいたことをようやく尋ねる。


「ああ、そうだな!、伊吹手出して」


「手??」


「そう、両手!、手のひら上にしてな」


言われた指示に従って両手の手のひらを上に向けて先輩に向けて差し出す。


「誕生日おめでと、伊吹」


すると、その言葉と共に、手のひらに乗ったのは、オシャレにラッピングされた袋。


「どうして……」


まさか岡本先輩からその言葉とプレゼントをもらえるだなんて思っていなかったあたしは、驚いてしまった。


「俺さ、自分の誕生日のときな、お前から祝ってもらってめちゃくちゃ嬉しかったんだ。だから、絶対伊吹にも嬉しいって思ってもらえるようにしようって決めてたんだ。プレゼントも、女物とかよくわかんねーけど、それ、伊吹に合うかなって思ってさ」


いつもの眩しい笑みとは違い、どこか照れたようにはにかむ先輩。

その姿に、あたしは心の中がまるで春のように暖かくなった。


「伊吹、おめでとう」


「ありがとうございます」


もう一度言ってくれたその言葉に、今度こそ、あたしも笑顔でお礼を言った。



家に帰ったあたしは、さっそくもらったプレゼントを開けてみた。

詩音からは小物入れ。
杏奈からはコスメポーチ。
瑠美からはマドレーヌとニット帽。
蛍からは好きなアーティストのCDアルバムを2枚。


「ありがとう」


どれもこれもあたしの好きなものや欲しかったものばかりで、一人もう一度お礼を呟く。


「岡本先輩は何をプレゼントしてくれたのかなぁ??」


かけられたリボンをシュルリと解き、中に入っているのを見ると……。


「ヘッドフォンと伊達メガネ!」


そこには淡い黄色のヘッドフォンと黒縁の伊達メガネ。

どちらも完全にレディース物で、わざわざあの“男気満天”と言われている岡本先輩が選んで購入してくれたのかと思うと口元が緩む。


「お揃いみたい……」


鏡に映る伊達メガネをかけたあたし。

それは何だか先輩とお揃いみたいで余計に嬉しくなる。

岡本先輩自身はそんなこと思って選んだんじゃないことくらいわかっているけど、鏡の中のあたしはどうしようもなく笑みが溢れてしまう。

何てあたしって単純なのかな。

自分に“ふふっ”と笑ってしまう。