「もっと周り見ろー!!」


「パス回せー!!」


暖房の利いた暖かい教室からは一変。

あたしがいるのはバスケ部が練習を行う体育館。

全く暖かくなく、逆に寒いくらいのこの場所にいる理由は、それはあたしがバスケ部でマネージャーをさせてもらっているから。


飛び交う大きな声、バッシュが床に擦れる音、ボールが跳ねる音やパスを受けたときの掴む音。

様々な音が止むことなく鳴り響く体育館で、こんな冬でも半袖半ズボンで動く選手達。

最初こそ圧倒される雰囲気ではあったけど、もう半年以上もマネージャーをしていると、この空気に威圧されることも飲まれることもなくなり、きちんとマネージャーとしての仕事をこなせるようになった。

選手達のお世話もちゃんと出来てればいいんだけど、それはさすがにあたし自身が見切りを付けれることではないので、これからも向上していけるように頑張るつもり。


「伊吹!!」


そんなことを一人思いながら作業をしていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこにはニカッと眩しく笑う岡本先輩。


「ゲーム終わったんですね」


「おう!俺勝ったよ!」


体育館ではさっきまで2チームに分かれてゲームをしていたけれど、どうやらそれが終わったみたい。

岡本先輩はピースをしてくれた。


「さすがです、お疲れ様です!……、でも、汗吹かないままその格好で外に来たら風邪ひきますよ??」


あたしのその言葉に“あはは”なんて笑う先輩。

そう、今あたし達がいるのは外。

空になったボトルを洗いに外の水道を使っているところに岡本先輩がやってきたの。

しかも、ゲームが終わってそのまま来たのか、汗をかいたまま、半袖で。


「大丈夫大丈夫、ちゃんと上着持ってるから」


「今は暑いかもしれませんけど、ちゃんと着ておかないとダメです」


手に持っていたジャージをヒラヒラとアピールする岡本先輩をじっと見つめて注意すると、“マネージャーの言うことだからな”と肩を竦めてちゃんと上着を着てくれた。


「そういえば、何か用事があったんじゃないんですか??」


安心して頷いていると、ふと、そういえば先輩は何でここにいるんだろう、という疑問が。


「おー、そうそう、伊吹にな」


「あたしに??」


何だろう??、そう思いながら首を傾げて続きを待つ。


「お前さ、部活終わった後ちょっと時間くれねーか??」


「??、はい、構いませんよ」


「いつもの友達に会う約束とかは??」


「詩音達にですか??、いえ、今日はもう」


「そっか!、なら部活終わり、またここで」


それだけ言うと、岡本先輩は小走りで体育館へと戻っていった。