「響ー、奏ー、お節出来たわよー」
「母さん、カナ君まだ寝てるー」
「昨日遅かったもんね。それじゃあ響起こしてきて」
「はーい」
1月1日、元旦。
天気にも恵まれ、新たな一年がスタート。
「わざわざ帰ってきてよかったなぁ」
県外の大学に通っているため、去年から家を離れて一人暮らしをしている僕。
ここに帰って来るのも長い休みのときで、大学での予定とかバイトとかも何も入っていないとき。
だからほとんど帰ることはない。
今回だって年末年始、バイトでここには帰ってこられない予定だったんだけど、どうしても帰りたくなって帰ってきちゃった。
でもやっぱり帰ってきて正解。
僕と弟のカナ君のためにお正月らしく母さんがお節を手作りで作ってくれてる。
食べるのが楽しみだ。
それからもう一つ、わざわざ帰ってきてよかったなぁって思えること。
それは……。
「ニャー」
「ん??、どしたのカノン」
母さんに言われてまだ部屋で寝ているカナ君を起こしにリビングから出たところで、僕の足下に擦り寄るふわふわの塊。
見下ろすと、そこには黒と白のバイカラーをした我が家のアイドル猫、カノンの姿。
すりすりと頬をすり寄せて鳴き声を出すカノン。
しゃがみ込んで抱っこしてみれば、じっと僕を見つめ返してきた。
「カノンもカナ君起こしに行く??」
「ニャー」
カノンの鳴き声と共にリンリンと首の鈴が鳴る。
「それじゃあ行こうか!」
“しゅっぱーつ”と手を挙げ、カノンを抱っこしたままカナ君の部屋に向かった。
「カナくーん」
ノックをして中に入ると、ベッドの上に見える布団の山。
近付くとそこには、寒いのか大量の布団に包まるカナ君の姿が。
すぐ横まで行き、目線を合わせるようにベッドの横にしゃがみ、名前を呼びながら布団をポンポンと叩いてみる。
でもカナ君に起きる気配は見られない。
「珍しいねぇ、すぐに起きないなんて」
いつもなら名前を呼ぶとすぐに目を覚ますはずなのに、今日は起きない。
その光景は長い間ずっと一緒にいた兄である僕でも珍しい光景。
でも今日は確かに仕方がないと思う。
だって昨日、カナ君は夜中に初詣に行っていたんだから。
「よっぽど楽しかったんだろうね」
安心したように眠るその穏やかな顔は、カナ君があの子達と一緒にいて楽しいんだということがわかる。
僕はそれが嬉しくて頬が綻ぶ。
昔、両親が離婚する手前くらいのとき、カナ君はまだ小さいのに広い部屋でたった一人でいることが日常だった。
そして両親離婚後こっちに引っ越してきたとき、周りから向けられる声や視線に耐えられなくて周りと一線を引くようになった。
中学生のとき、ずっとカナ君を支えてきてくれていた陸上とお菓子作りを辞めた。
そして今、県外にいる僕の代わりに一人で母さんを守ってくれている。
カナ君はいつも僕達家族には何も言わない。
辛いときも悲しいときも苦しいときも、何も言わない。
そして僕達はカナ君が耐えられなくなっていることに気付いているのに、僕達にそれを言わさないようにしている。
家族なのに、自分一人で全部背負おうとする。
僕はそれがずっと心配だった。
でも、最近陸上を再開したと聞いた。
それは昨日カナ君を初詣に誘ってくれたlibertyの友達が中学生のときからずっとカナ君を支えてくれていたから。
カナ君にとって、唯一支えとなっているのはlibertyのみんななんだと気付いた。
母さんもカナ君がそんなみんなと一緒に笑ってるのを望んでいる。
だから昨日、母さんを心配して初詣に行くのを渋るカナ君を無理矢理行かせた。
僕が帰ってきているときくらい、カナ君は何も気にせずに過ごせばいい、そう思ったから。
「カナ君なかなか起きないねぇ……。よーしっ、カノンアターック!」
「……ん……何やってるの……兄さん……」
「起きた!」
なかなか起きないカナ君の頬に、カノンの右手をプニッと乗せると、ようやくゆっくりとその瞼が開いた。
「おはようカナ君!」
「おはよう……」
「もう母さんお節出来たって言ってるから、カナ君も早く降りておいで」
欠伸をしてベッドから出たカナ君は僕の言葉に頷いた。
「ん??、何??」
それをじーっと見ていると、僕の視線に気付いたカナ君が不思議そうに首を傾げる。
「わっ!?ちょっ!兄さんっ!?」
突然頭をわしゃわしゃと撫でた僕に、カナ君は驚いた声を上げる。
こうやって弟の頭撫でたのいつぶりだろう。
「何も言わないカナ君が悪いんだよ!」
「はぁっ??」
そう言い捨てて、僕はカノンを抱いたまま階段を駆け下りる。
「本当に、何も言ってくれないんだから……」
僕の友達である神崎緋織君に聞いた。
緋織君の妹である瑠美ちゃんと仲が良いって。
女の子なんて興味ないし、近寄らせないように煙たがっていたカナ君が、瑠美ちゃんとは仲良しなんて。
「嫌なことは何も言わないのは昔からだから、本当は言ってほしいけど、それは我慢してあげる……、その代わり、嬉しいことはちゃんと言ってよ??カナ君」
これから瑠美ちゃんとの関係が変わるかもしれないし、もしかすると他の誰かと……、なんてこともあるかもしれない。
どちらにしろ、カナ君にとって幸せだと思うことは言ってほしいんだよ。
だって……。
「だって僕はカナ君のお兄ちゃんなんだよ」
嫌なことは僕に頼って、幸せなことは僕に報告して。
せっかくの兄弟なのに、一人で全部片付けちゃうなんて、何だか悲しいでしょ??
カナ君はこれを聞いたら顔を歪めて嫌がるかもしれないね。
だけどねカナ君、お兄ちゃんなんてものはね、弟を構いたくて仕方がない生き物なんだから。
たまには諦めて、僕に構われてよ。
ねっ、カナ君。
「母さん、カナ君まだ寝てるー」
「昨日遅かったもんね。それじゃあ響起こしてきて」
「はーい」
1月1日、元旦。
天気にも恵まれ、新たな一年がスタート。
「わざわざ帰ってきてよかったなぁ」
県外の大学に通っているため、去年から家を離れて一人暮らしをしている僕。
ここに帰って来るのも長い休みのときで、大学での予定とかバイトとかも何も入っていないとき。
だからほとんど帰ることはない。
今回だって年末年始、バイトでここには帰ってこられない予定だったんだけど、どうしても帰りたくなって帰ってきちゃった。
でもやっぱり帰ってきて正解。
僕と弟のカナ君のためにお正月らしく母さんがお節を手作りで作ってくれてる。
食べるのが楽しみだ。
それからもう一つ、わざわざ帰ってきてよかったなぁって思えること。
それは……。
「ニャー」
「ん??、どしたのカノン」
母さんに言われてまだ部屋で寝ているカナ君を起こしにリビングから出たところで、僕の足下に擦り寄るふわふわの塊。
見下ろすと、そこには黒と白のバイカラーをした我が家のアイドル猫、カノンの姿。
すりすりと頬をすり寄せて鳴き声を出すカノン。
しゃがみ込んで抱っこしてみれば、じっと僕を見つめ返してきた。
「カノンもカナ君起こしに行く??」
「ニャー」
カノンの鳴き声と共にリンリンと首の鈴が鳴る。
「それじゃあ行こうか!」
“しゅっぱーつ”と手を挙げ、カノンを抱っこしたままカナ君の部屋に向かった。
「カナくーん」
ノックをして中に入ると、ベッドの上に見える布団の山。
近付くとそこには、寒いのか大量の布団に包まるカナ君の姿が。
すぐ横まで行き、目線を合わせるようにベッドの横にしゃがみ、名前を呼びながら布団をポンポンと叩いてみる。
でもカナ君に起きる気配は見られない。
「珍しいねぇ、すぐに起きないなんて」
いつもなら名前を呼ぶとすぐに目を覚ますはずなのに、今日は起きない。
その光景は長い間ずっと一緒にいた兄である僕でも珍しい光景。
でも今日は確かに仕方がないと思う。
だって昨日、カナ君は夜中に初詣に行っていたんだから。
「よっぽど楽しかったんだろうね」
安心したように眠るその穏やかな顔は、カナ君があの子達と一緒にいて楽しいんだということがわかる。
僕はそれが嬉しくて頬が綻ぶ。
昔、両親が離婚する手前くらいのとき、カナ君はまだ小さいのに広い部屋でたった一人でいることが日常だった。
そして両親離婚後こっちに引っ越してきたとき、周りから向けられる声や視線に耐えられなくて周りと一線を引くようになった。
中学生のとき、ずっとカナ君を支えてきてくれていた陸上とお菓子作りを辞めた。
そして今、県外にいる僕の代わりに一人で母さんを守ってくれている。
カナ君はいつも僕達家族には何も言わない。
辛いときも悲しいときも苦しいときも、何も言わない。
そして僕達はカナ君が耐えられなくなっていることに気付いているのに、僕達にそれを言わさないようにしている。
家族なのに、自分一人で全部背負おうとする。
僕はそれがずっと心配だった。
でも、最近陸上を再開したと聞いた。
それは昨日カナ君を初詣に誘ってくれたlibertyの友達が中学生のときからずっとカナ君を支えてくれていたから。
カナ君にとって、唯一支えとなっているのはlibertyのみんななんだと気付いた。
母さんもカナ君がそんなみんなと一緒に笑ってるのを望んでいる。
だから昨日、母さんを心配して初詣に行くのを渋るカナ君を無理矢理行かせた。
僕が帰ってきているときくらい、カナ君は何も気にせずに過ごせばいい、そう思ったから。
「カナ君なかなか起きないねぇ……。よーしっ、カノンアターック!」
「……ん……何やってるの……兄さん……」
「起きた!」
なかなか起きないカナ君の頬に、カノンの右手をプニッと乗せると、ようやくゆっくりとその瞼が開いた。
「おはようカナ君!」
「おはよう……」
「もう母さんお節出来たって言ってるから、カナ君も早く降りておいで」
欠伸をしてベッドから出たカナ君は僕の言葉に頷いた。
「ん??、何??」
それをじーっと見ていると、僕の視線に気付いたカナ君が不思議そうに首を傾げる。
「わっ!?ちょっ!兄さんっ!?」
突然頭をわしゃわしゃと撫でた僕に、カナ君は驚いた声を上げる。
こうやって弟の頭撫でたのいつぶりだろう。
「何も言わないカナ君が悪いんだよ!」
「はぁっ??」
そう言い捨てて、僕はカノンを抱いたまま階段を駆け下りる。
「本当に、何も言ってくれないんだから……」
僕の友達である神崎緋織君に聞いた。
緋織君の妹である瑠美ちゃんと仲が良いって。
女の子なんて興味ないし、近寄らせないように煙たがっていたカナ君が、瑠美ちゃんとは仲良しなんて。
「嫌なことは何も言わないのは昔からだから、本当は言ってほしいけど、それは我慢してあげる……、その代わり、嬉しいことはちゃんと言ってよ??カナ君」
これから瑠美ちゃんとの関係が変わるかもしれないし、もしかすると他の誰かと……、なんてこともあるかもしれない。
どちらにしろ、カナ君にとって幸せだと思うことは言ってほしいんだよ。
だって……。
「だって僕はカナ君のお兄ちゃんなんだよ」
嫌なことは僕に頼って、幸せなことは僕に報告して。
せっかくの兄弟なのに、一人で全部片付けちゃうなんて、何だか悲しいでしょ??
カナ君はこれを聞いたら顔を歪めて嫌がるかもしれないね。
だけどねカナ君、お兄ちゃんなんてものはね、弟を構いたくて仕方がない生き物なんだから。
たまには諦めて、僕に構われてよ。
ねっ、カナ君。