めちゃくちゃデカい日本家屋。

普段門を潜るとズラリと並んでいるはずの荒川組の組員のみなさんが今日はいない。

そういえば何年か前の冬、リョウキチにそのことを尋ねると、“だってそんな寒い中外にいたら風邪引いちゃうでしょ??”と言われた。

極道の家とは思えない、その組員に対する気持ちに感動したんだった。

なるほど、だから今日は誰も外にはいないんだ。

そう一人で納得し、そのまま門を潜って玄関のインターホンを押す。


「いらっしゃい、こんな時間にどうしたの??」


少しして、リョウキチが玄関を開けた。

こんな時間に訪ねたものだから、何かあったのかと思ったのだろう、リョウキチは少し急ぎ足でやってきた。


「初詣??それはすごく楽しそうだけど……」


事情を説明すると、安心したようにホッと息をついた。

そしてすぐにバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。

やっぱりお家柄、大晦日に席を外せないのか。


「涼桔、いってこい」


3人で残念だと肩を落としていると、突然リョウキチの奥からそんな声が聞こえた。


「兄さん!」


振り向いたリョウキチと一緒に奥を覗くと、そこにはリョウキチの兄である宗佑さんの姿。


「いってこいって……、いいの??……」


「大晦日の夜なんて大人達が酒飲んで騒ぎ散らすだけだ。高校生のお前はそんなとこにいないで友達と遊ぶのが仕事だ」


「でも……」


「兄貴の言うことは黙って聞いておくものだぞ」


戸惑うリョウキチの背中を押して、“準備してこい”と言った宗佑さん。

リョウキチは嬉しそうに頷いて、準備をしに奥へと戻っていった。


「瀬那君と玲斗君だったよな??それからあと成海と奏君??の4人か」


「はい」


「またいつでも遊びに来な」


それだけ言うと、宗佑さんは奥へ戻っていった。

どうして突然そんなことを言われたのかわからなくて、ボクとレイは顔を見合わせる。

けれどすぐに準備を終えたリョウキチがやってきたため、ボク達は気にせず外へ出た。




「若い子達が困ってるでしょ」


リョウキチの家から出て、ボク達3人は次にナルみんの家にやってきた。

一階の食堂がまだ明るいため、ボク達は食堂からお邪魔した。

すると、中には十数人の大人がいて、ここでも宴会状態になっている。

入口から入ってきたのが明らかに成人してない子供だとわかると、大人達は絡み酒のごとくボク達3人に絡んできた。

そんな状況を、奥から聞こえた声が制する。


「まったく、若い子見たらすぐ絡みたがるんだから」


「悪い悪い、そんな睨まないでくれよ右京ちゃん」


大人達の間を縫ってボク達に近付いてきたのは、ナルみんの姉である右京さん。


「何々、飲みに来たの??」


ボク達が“こんばんは”と言う間もなく、右京さんはボク達にニヤニヤと笑みを浮かべた。

あんまりナルさんと似てないと思ってたけど、こういう顔するとそっくりだ。


「あれ~??何で3人がいるの~??」


右京さんの言葉に答えようとしていたのを再び遮られた。

ナルさんに。


「初詣??」


右京さんの言葉への返事も兼ねてナルみんに説明をすると、ナルみんはリョウキチのときと同じく目を見開いて驚いた顔をした。


「まあ、そりゃあ行きたいっちゃ行きたいけど~……」


そう言葉を濁しながら後ろへ目線を向けたナルみん。

どうやら店の手伝いで抜けられないみたい。


「いいねいいね、高校生が揃って深夜徘徊」


落胆するボク達と打って変わって楽しそうな声を出す右京さん。


「成海、いってきな」


「えっ、でも店が……」


「もうここには酔っ払いしかいないんだからアンタが抜けたところでどうにでもなるわ」


「だけど……」


右京さんの言葉にどうしようかと戸惑うナルみん。

そんなナルみんを見て右京さんは……。


「いいから行けって言ってるだろーが。男なら深夜徘徊の一つや二つやってこいっつってんだよ」


「3分で準備してくるから待ってて」


ヤンキー時代に培われた鬼のような形相をされ、ナルみんはバタバタと準備をしにいった。

呆然とそれを見ていると、右京さんがクルリとボク達のほうに振り返る。


「楽しんでおいで」


ビクリと肩を上げたボク達だったけど、その優しい笑みに、今度は拍子抜けした。