「失礼します」と声をかけ、ドアを開いて中に入ると、ぼく達はその光景に目を疑った。


「えっ!?今年はないんじゃなかったの!?」


ナルの言葉に保健室の先生は「去年のことがあったから、今年は紙には書いてなかったのよ」と言った。


「おい、カナ??……」


レイの呼びかけに無反応なカナデにぼく達も目を向ける。


「長坂君、今年こそはちゃっちゃとしてもらうわよ、注射」


霧南は今時珍しく学校で血液検査を受けるようになっている。
そのために注射器を使い血を採るのだけれど、実はカナデは驚くほど注射が嫌い。
現に先生の言葉に口元をひくつかせ、顔を青白くしている。


「ムリ!!注射なんてしなくても大丈夫だよ!!」


去年も確か同じことを叫んでいた。


去年は注射を嫌がって受けないと言い張ったカナデを見て、普段のカナデとは違って珍しく取り乱しているから、みんなで(主にナルが)からかうと、ぼく達と出会ってから一度も見せたことのないくらいの笑顔で先生達をもビビらせてしまい、注射は中止になってしまった。

それからしばらくカナデは怒っていてぼく達に毎日いたずらと言う名の嫌がらせをした。
あまりにもその嫌がらせがぼく達に大ダメージを与えたので、ぼく達は深く反省し、あの時のことをしっかりと心に焼き付けた。
あれは悪夢だったと。


「悪夢……再来っ……」


ガタガタと震えながら頭を抱えたセナは「ボク達死んじゃうボク達死んじゃう」とブツブツ唱えるように言った。


「さあ!長坂君座りなさい!」


「嫌だってば!!血液検査なんてしなくても俺の赤血球は元気だし、白血球だって正常運転だよ!!」


「いいから座りなさい!!」


そして先生との攻防戦を繰り返した結果、カナデは無理矢理注射をされた。


「カナデ……だいじょう……っ!!?」


死んでいるカナデに大丈夫か尋ねようとゆっくり近付くと、カナデの顔を見てぼくは声にならない悲鳴を上げた。


「大丈夫かって??……これが大丈夫そうに見えるのかなぁ~??……」


ゆらゆらとぼく達へ近付いてきたカナデはあの黒い笑顔でも真顔でもない、瞳孔完全に開いて口元だけ微妙に笑っているという、見たこともないようなキレた顔をした。

そしてみんな悟った。
あっ、これヤバいな、と。


この後カナデの八つ当たりでぼく達がどうなったかはご想像にお任せします。
何せ思い出すのでさえ恐いから。


これをきっかけに、来年からは本格的に血液検査を廃止にするかが、真剣に職員会議に持ち込まれたらしい。

そしてまた1つ、カナデの最恐説が霧南に刻まれることとなった。

カナデがどれだけ黒かろうがぼく達は友達辞めるつもりはない。
だけどカナデ、どうか八つ当たりだけは辞めてください。