「ふぅ……あら??松岡君??」
「っ!!」
すぐに立ち去るつもりだったのに、気付けば曲が終わるまでそこにいてしまった。
先生から呼び掛けられてハッとなった。
本当は今すぐにでも立ち去ってしまいたかった。
けれど俺の性格上、それは叶わない。
「綺麗な曲だね~、さっすが多部先生~」
いつもの調子で笑って言葉を発した。
「ふふっ、ありがとう」
口元を抑えて笑うその笑い方にドキッとした。
クラスの女の子みたいな笑い方じゃないそれは、やはり俺なんかよりも大人なんだと意識せざるを得なかったから。
「ねえ、松岡君も弾いてみない??」
「えっ??」
いい加減ここから立ち去ろうと思い、声をかけようとした瞬間、突拍子もないことを言い出した。
俺はただ驚いて目を見開く。
「おいで」
その声と手招きに、俺の足は再び勝手に進んでいた。
「指はね、こうして抑えて……そう、そうして」
俺よりも遙かに小さいその手が、優しく俺の手を包み込み、鍵盤に誘導する。
「ね??簡単でしょ??」
俺を見上げて微笑むその顔に、
「……うん」
気付けば俺は恋に落ちていた。
その日から、毎週吹奏楽部が休みの日には音楽室に足を運び、多部先生にピアノを教わる口実で会いに行っていた。
「ここ数ヶ月、ナル楽しそうだよな」
「一週間に一回やたらナルさん楽しそうな日あるよね」
「何か楽しいことでも見つけたの??」
しばらくすると玲斗とセツ子と奏ちゃんにそんなことを言われるようになった。
「ふっふっふっ、実はね~」
「ナル」
俺が楽しそうにしている理由くらいなら、3人には言ってもいいかと思い口を開いたそのとき、さっきまでいなかったりょうが後ろから俺の名前を呼んだ。
「どうしたのりょう」
「お客さんだよ」
振り返って尋ねると、りょうは困ったように笑い、ドアの方に目を向けた。
「……ありがとう」
そこにいる人物を確認した俺はりょうの困ったような笑顔の理由がわかった。
立ち上がり、りょうに笑ってお礼を言う。
もうこれで4回目だ。
「成海、別れよう??」
またか。
正直そう思った。
そして、早く音楽室に行きたいんだけどな、とも。
「うん、わかった」
その言葉と共に、頬に激しい痛みが走った。
「何で成海は簡単に受け入れるのよっ!!」
俺を叩いた手を未だに上げたままで泣き叫ぶ目の前の女の子。
俺の恋愛はいつも3ヶ月も続かない。
理由はわかっていた。
先生のことが好きな俺は他の誰かを好きになれないから。
なのになぜ俺が他の誰かと付き合うのか。
それこそ簡単だ。
先生と生徒の恋なんてものは叶わない恋だとわかっている。
好きだからこそ、触れてはいけない。
そんなどうしようもない気持ちを別の誰かで癒やしたいから。
俺を癒やしてくれるなら誰だって構わない。
俺は、いつだって来る者拒まず去る者追わず。
「成海は……愛がないよ」
その言葉も聞き飽きた。
何人に同じことを言われても、俺は全く気にしていなかった。
だって俺の本命はいつだって先生で、それ以外は俺を満たすための存在でしかなかったから。
そんなことを繰り返しながら、中学3年生の11月、7人目の女の子に振られたある日。
「俺こんなにもイケメンで優しいのに、何で3ヶ月も保たないのかな~??」
体育の時間、試合に出ている玲斗とセツ子と奏ちゃんをりょうと2人で応援しているとき、世間話程度にそんな話を振った。
ちょっと困らせて弄ろうとしたんだ。
だけど……。
「好き人じゃないからでしょ」
「えっ??……」
「だってナル、多部先生のこと好きなんでしょ??」
「っ!!」
すぐに立ち去るつもりだったのに、気付けば曲が終わるまでそこにいてしまった。
先生から呼び掛けられてハッとなった。
本当は今すぐにでも立ち去ってしまいたかった。
けれど俺の性格上、それは叶わない。
「綺麗な曲だね~、さっすが多部先生~」
いつもの調子で笑って言葉を発した。
「ふふっ、ありがとう」
口元を抑えて笑うその笑い方にドキッとした。
クラスの女の子みたいな笑い方じゃないそれは、やはり俺なんかよりも大人なんだと意識せざるを得なかったから。
「ねえ、松岡君も弾いてみない??」
「えっ??」
いい加減ここから立ち去ろうと思い、声をかけようとした瞬間、突拍子もないことを言い出した。
俺はただ驚いて目を見開く。
「おいで」
その声と手招きに、俺の足は再び勝手に進んでいた。
「指はね、こうして抑えて……そう、そうして」
俺よりも遙かに小さいその手が、優しく俺の手を包み込み、鍵盤に誘導する。
「ね??簡単でしょ??」
俺を見上げて微笑むその顔に、
「……うん」
気付けば俺は恋に落ちていた。
その日から、毎週吹奏楽部が休みの日には音楽室に足を運び、多部先生にピアノを教わる口実で会いに行っていた。
「ここ数ヶ月、ナル楽しそうだよな」
「一週間に一回やたらナルさん楽しそうな日あるよね」
「何か楽しいことでも見つけたの??」
しばらくすると玲斗とセツ子と奏ちゃんにそんなことを言われるようになった。
「ふっふっふっ、実はね~」
「ナル」
俺が楽しそうにしている理由くらいなら、3人には言ってもいいかと思い口を開いたそのとき、さっきまでいなかったりょうが後ろから俺の名前を呼んだ。
「どうしたのりょう」
「お客さんだよ」
振り返って尋ねると、りょうは困ったように笑い、ドアの方に目を向けた。
「……ありがとう」
そこにいる人物を確認した俺はりょうの困ったような笑顔の理由がわかった。
立ち上がり、りょうに笑ってお礼を言う。
もうこれで4回目だ。
「成海、別れよう??」
またか。
正直そう思った。
そして、早く音楽室に行きたいんだけどな、とも。
「うん、わかった」
その言葉と共に、頬に激しい痛みが走った。
「何で成海は簡単に受け入れるのよっ!!」
俺を叩いた手を未だに上げたままで泣き叫ぶ目の前の女の子。
俺の恋愛はいつも3ヶ月も続かない。
理由はわかっていた。
先生のことが好きな俺は他の誰かを好きになれないから。
なのになぜ俺が他の誰かと付き合うのか。
それこそ簡単だ。
先生と生徒の恋なんてものは叶わない恋だとわかっている。
好きだからこそ、触れてはいけない。
そんなどうしようもない気持ちを別の誰かで癒やしたいから。
俺を癒やしてくれるなら誰だって構わない。
俺は、いつだって来る者拒まず去る者追わず。
「成海は……愛がないよ」
その言葉も聞き飽きた。
何人に同じことを言われても、俺は全く気にしていなかった。
だって俺の本命はいつだって先生で、それ以外は俺を満たすための存在でしかなかったから。
そんなことを繰り返しながら、中学3年生の11月、7人目の女の子に振られたある日。
「俺こんなにもイケメンで優しいのに、何で3ヶ月も保たないのかな~??」
体育の時間、試合に出ている玲斗とセツ子と奏ちゃんをりょうと2人で応援しているとき、世間話程度にそんな話を振った。
ちょっと困らせて弄ろうとしたんだ。
だけど……。
「好き人じゃないからでしょ」
「えっ??……」
「だってナル、多部先生のこと好きなんでしょ??」
