「蛍ちゃんとデートなんて俺幸せ~!」


「買い出しに行ってるだけでデートじゃないです、松岡先輩ふざけないでください」


季節は冬を迎えた12月。

今日は蛍ちゃんと2人で部活で必要な物、テーピングとかスプレーとかその他諸々を買いに来ている。

笑顔で言った俺の言葉に、普通の女の子は照れたりする。

けど蛍ちゃんは照れるどころか、俺の方をチラリとも見ずに、バッサリ切り捨てた。


「蛍ちゃん冷たい~」


口ではこう言う俺だけど、なぜか笑顔になる。

いや、別に俺がMとかじゃなくてね??

そうじゃなくて、なぜかこの会話が楽しいと思えるってこと。


「先輩、テーピングとスプレー見てくるので、プロテインとドリンクお願いできますか??」


「いいよ~、任せて~!」


霧南で1番規模の大きいショッピングモールは、学校から少し離れた場所にある。

そこは品揃えがよくて、どんなものでも置いてあると言っても過言じゃないくらい。

だからいつも部活で必要な物はここで揃えているんだけど、やっぱり広すぎるから、たいてい数人で来て手分けして買い物をするんだよね~。

今回は買うものがいつもより少ないから、俺と蛍ちゃんの2人で来た。

そしていつもの通り、俺達はそれぞれ手分けして買い物をすることに。

俺の返事を聞いて、買うものを探しに行った蛍ちゃんの背中を見送ってから、俺も言われたものを探しに店内を歩き始めた。


「これで全部かな」


言われたものを全て購入し終えたのは30分後。

蛍ちゃんはもう買い物終わったかな??


「えっと、た……た……」


広い店内を歩いて捜すのは無謀なため、ここは大人しく電話をかけることに。

俺は人が行き交う通路から少し外れた壁に背中を預けて、携帯の電話帳から、“小鳥遊蛍ちゃん”を探すため、た行のところへスクロールした。


「ちょっと行き過ぎた……っ!!」


小鳥遊の“たか”を通り過ぎてしまった。

行き過ぎてしまったことに苦笑いをしながら上へスクロールをしようとした瞬間、俺はある名前を見つけてしまった。


「多部……明美……」


多部明美(たべ あけみ)。

その名前は、俺にとって苦しい記憶を蘇らせる。


「まだ消してなかったんだ……この番号……」


頭に昔の記憶が浮かび上がる。


「ははっ……すっかり忘れてた」


苦笑いがでたって仕方ない。

だってこの人は……。


「俺の初恋の人……」