「もう一度お前を陸上部に誘えば、お前はもう二度と陸上部に来なくなると思った。そうなると、本格的に短距離から離れてしまうことになる。だから今まで黙っていたんだ」
「それじゃあ、どうして今……」
逸らしそうになる俺の目を、ハル君はひたすら真っ直ぐ見つめてくる。
「これが最後だと思ったからだ……これでお前が短距離をしなければ、これから先、一生することはないと思ったからだ」
これからある陸上の試合のことを考えると、確かにこれが最後。
これより後になると、もう陸上部に入ることは一生なくなる。
ハル君はそれを考えて、今俺にこの話を持ちかけたのか。
だけど……。
「悪いけど、俺は陸上には……短距離には戻らないよ」
「っ!!」
ハル君が勢いよく立ち上がった。
「お前はっもう二度と陸上をっ……短距離をしないつもりなのか!!?」
「………」
「お前はっもう一度ゴールの線を踏みたいと思わないのかっ!!?」
「………」
硬派なハル君がこんなにも声を張り上げているのを見るのは、俺が陸上を辞めたとき以来……。
「お前はっもう一度あのレーンで風を切りたいと思わないのかっ!!?お前はっもう一度走りたいと思わないのかっ!!?」
「……思わないよ」
その言葉で終止符を打った。
「えっ!?カナデッ……」
ハル君がいなくなった後、部室に戻ってきた瀬那。
心配そうに俺を呼ぶその声を無理やり振り切り、俺は部室を後にした。
「くそっ……」
いきなり立ち上がって部室から出たせいか、酷い立ちくらみがする。
そんなときに、頭にはハル君の言葉がぐるぐる回る。
「長坂先輩っ!!」
暗闇で倒れてしまいそうになった俺。
そのとき、駆け寄ってきてくれたこの声は……。
「瑠美ちゃん??……」
暗闇が次第に明るくなっていき、目の前には瑠美ちゃんがいた。
「長坂先輩大丈夫ですか!?とりあえずそこに座りましょう!!」
いつものように俺にお菓子を渡しに来てくれるため、俺を探していた瑠美ちゃん。
そんなとき、ちょうど膝から崩れ落ちそうになる俺を見つけて走ってきてくれたらしい。
俺は瑠美ちゃんに支えられながら、近くにあるベンチに腰かけた。
「ごめんね……ダメだな俺……弱い……」
「先輩、お願いです」
苦笑いをする俺の手首をしっかり握り、逃げられないようにする瑠美ちゃん。
突然のその行動に驚く間もなく、瑠美ちゃんは真っ直ぐに俺を見つめた。
「絶対に逸らさないで、ちゃんと言ってください……何があったんですか??」
真剣なその目は俺を射るように見つめている。
「ハハッ……誤魔化せないな……」
言うつもりはなかった。
だけどその真剣な瑠美ちゃんの目と、あとは、切羽詰まってしまっている俺自身によって、さっきまでのことを話していた。
「私には、いつだって先輩が楽しそうに陸上をしているように見えました……」
「楽しそうに??……」
「先輩の過去のことはわかっています、だけどっこれ以上自分を偽るなんてダメですっ……ちゃんとお母さんやお兄さんと話してみてくださいっそうすれば先輩が本当はどうするべきかわかるはずです!!」
普段あんなにも大人しい瑠美ちゃんが、今は悲しそうに顔を歪めながら俺のために大きな声を出してくれている。
「もし仮に……母さんと兄さんが許してくれたとしても……俺は走れない……」
「それはっ走れないんじゃなくて走らないだけでっ……」
「怖いんだよ……風の音によってかき消されて聞こえなくなる声援がっ……怖いんだよ……一瞬で移り変わってしまう景色がっ……怖いんだよ!!……あのレーンの上を走ることがっ!!……」
こんなのただの八つ当たり……。
瑠美ちゃんが言ってくれている言葉を聴こうともしない、ただの駄々っ子……。
だけど、それでも俺は、今はどうすることもできないから……。
「長坂先輩っ待ってください!!」
それを振り払うように逃げることしかできない。
「それじゃあ、どうして今……」
逸らしそうになる俺の目を、ハル君はひたすら真っ直ぐ見つめてくる。
「これが最後だと思ったからだ……これでお前が短距離をしなければ、これから先、一生することはないと思ったからだ」
これからある陸上の試合のことを考えると、確かにこれが最後。
これより後になると、もう陸上部に入ることは一生なくなる。
ハル君はそれを考えて、今俺にこの話を持ちかけたのか。
だけど……。
「悪いけど、俺は陸上には……短距離には戻らないよ」
「っ!!」
ハル君が勢いよく立ち上がった。
「お前はっもう二度と陸上をっ……短距離をしないつもりなのか!!?」
「………」
「お前はっもう一度ゴールの線を踏みたいと思わないのかっ!!?」
「………」
硬派なハル君がこんなにも声を張り上げているのを見るのは、俺が陸上を辞めたとき以来……。
「お前はっもう一度あのレーンで風を切りたいと思わないのかっ!!?お前はっもう一度走りたいと思わないのかっ!!?」
「……思わないよ」
その言葉で終止符を打った。
「えっ!?カナデッ……」
ハル君がいなくなった後、部室に戻ってきた瀬那。
心配そうに俺を呼ぶその声を無理やり振り切り、俺は部室を後にした。
「くそっ……」
いきなり立ち上がって部室から出たせいか、酷い立ちくらみがする。
そんなときに、頭にはハル君の言葉がぐるぐる回る。
「長坂先輩っ!!」
暗闇で倒れてしまいそうになった俺。
そのとき、駆け寄ってきてくれたこの声は……。
「瑠美ちゃん??……」
暗闇が次第に明るくなっていき、目の前には瑠美ちゃんがいた。
「長坂先輩大丈夫ですか!?とりあえずそこに座りましょう!!」
いつものように俺にお菓子を渡しに来てくれるため、俺を探していた瑠美ちゃん。
そんなとき、ちょうど膝から崩れ落ちそうになる俺を見つけて走ってきてくれたらしい。
俺は瑠美ちゃんに支えられながら、近くにあるベンチに腰かけた。
「ごめんね……ダメだな俺……弱い……」
「先輩、お願いです」
苦笑いをする俺の手首をしっかり握り、逃げられないようにする瑠美ちゃん。
突然のその行動に驚く間もなく、瑠美ちゃんは真っ直ぐに俺を見つめた。
「絶対に逸らさないで、ちゃんと言ってください……何があったんですか??」
真剣なその目は俺を射るように見つめている。
「ハハッ……誤魔化せないな……」
言うつもりはなかった。
だけどその真剣な瑠美ちゃんの目と、あとは、切羽詰まってしまっている俺自身によって、さっきまでのことを話していた。
「私には、いつだって先輩が楽しそうに陸上をしているように見えました……」
「楽しそうに??……」
「先輩の過去のことはわかっています、だけどっこれ以上自分を偽るなんてダメですっ……ちゃんとお母さんやお兄さんと話してみてくださいっそうすれば先輩が本当はどうするべきかわかるはずです!!」
普段あんなにも大人しい瑠美ちゃんが、今は悲しそうに顔を歪めながら俺のために大きな声を出してくれている。
「もし仮に……母さんと兄さんが許してくれたとしても……俺は走れない……」
「それはっ走れないんじゃなくて走らないだけでっ……」
「怖いんだよ……風の音によってかき消されて聞こえなくなる声援がっ……怖いんだよ……一瞬で移り変わってしまう景色がっ……怖いんだよ!!……あのレーンの上を走ることがっ!!……」
こんなのただの八つ当たり……。
瑠美ちゃんが言ってくれている言葉を聴こうともしない、ただの駄々っ子……。
だけど、それでも俺は、今はどうすることもできないから……。
「長坂先輩っ待ってください!!」
それを振り払うように逃げることしかできない。