「瑠美ちゃんはお菓子作りが好きなんだね」


「昔からお菓子を作っている時が一番楽しいんです。今は昔ほど毎日作ることはなくなりましたけど」


「どうして??」


「作っても、食べてくれる人がいないのは悲しいですから……」


中学が同じで今も仲がいい4人はいつも食べてくれる。
だけど、それぞれ部活をしているから持って行くのも迷惑かと思い、部活が休みの時とか、みんなで遊ぶ時とかには持って行くことにし、それ以外は持って行かないので、必然的に他に食べてくれる人がいなくなる。


「じゃあさ、俺にちょうだい」


いつの間にか視線を下げて顔も下に向けていた私は、先輩の言葉に驚き顔を上げた。
すると、先輩はニコニコ笑顔で私を見ていた。


「迷惑じゃ……ないですか??……」


途切れ途切れになりながら先輩へ聞くと、先輩は首を横に振った。


「迷惑なんかじゃないし、気を使っているのでもない。俺が瑠美ちゃんのお菓子が欲しいだけ」


「それに俺の部活はヒマつぶし部だからいつ持って来てくれたって大丈夫なんだよ」と言ってハハハッと笑った。


「それじゃあ、お願いします」


「だから、お願いしますは俺の方。君は笑顔で了承の言葉をくれたらいいんだよ」


真面目な顔でそう言うものだから、つい言われた通り笑って了解しましたと言った。


「うん!それでよし!これからよろしくね」


木製のブレスレットを付けた右手を私へ差し出したので、私も恐る恐る右手を差し出すと、フワリと手を握られた。
私よりも大きなその手に、今度は緊張して恥ずかしくなって下を向いてしまった。

きっと目の前の先輩は私の緊張なんて知らず、未だに笑っているのだろう。
それとも、緊張を知りニヤニヤ笑っているのだろうか。

どちらにせよ、今私は顔を上げることなど出来やしない。



























「お帰りカナデ。どうしたの??そのクッキー」


あの後、ラッピングを手伝って、調理室の前で瑠美ちゃんと別れた俺はlibertyの部室へ帰ってきた。
すると、部活を終えたリョーがいて俺の手の中のクッキー達を見てそう言った。


「チーッス!ってカナ、どしたの??」


ドアが開き、今部活を終えたばかりの玲斗とナルが入って来て、玲斗はリョーと同じ質問をした。


「調理部行ってたのか??確か今日パーティーだったよな」


俺が部室を出て行った時には美術室へ行っていた瀬那は俺より早く部室へ帰って来て絵を書いていた。


「行ってた訳じゃないけど……」


瑠美ちゃんのことやクッキーのことも含め話してやると「なるほど」と納得した4人。


「でもさ、甘いのあんまり食べたりしない奏ちゃんがお菓子作ってもらう約束するなんてね」


ニヤニヤしながら言ってきたナルの足を軽く蹴ると大げさなリアクションをしてきた。


「いいからクッキー食べなよ」


そう言って机の上に置くと4人は美味しそうにクッキーを食べ始めた。


確かに俺がそんなことを言うなんて自分でも意外だったと思う。
だけどしょうがないだろ??
こんなに美味しいんだから。