「小鳥遊はこの中からだ」


そう言った臥龍先輩がアタシに渡してきたのは、仮装道具がたくさん入った箱。

とても重たい箱の中身を見てみると、いろんな種類の仮装道具が入っている。


「………」


今日のハロウィンイベントはlibertyのみなさんが発案らしいけど、どうせ言い始めたのは松岡先輩だと思う。

アタシだって、こうしてみんなで何かイベント事をするのは嫌いじゃない。

けど、発案が松岡先輩ということが、アタシには不快でしかない。


「どうせ仮装した女の子達と遊びたいだけでしょ……」


女好きの松岡先輩のイベントなんて参加したくない。

どうせ参加したって、松岡先輩は他の女の子達と……。


「松岡はあのドラキュラだ」


「えっ!?」


頭に浮かんでイライラしてしまった人の名前を言われて、思わず大きな声が出てしまった。

恥ずかしくて赤くなった顔で、臥龍先輩の指差す方へ目を向ける。

するとそこにあったのは、とても長いマントや尖った歯。


「ミッションM、女好きドラキュラの歯を折って真人間に作戦だ」


Mって松岡先輩のことよね??

っていうかそれより、ネーミングセンスが……。

真顔の臥龍先輩の言葉を笑うわけにもいかず、ワタシは咳払いで誤魔化した。







そして現在。


「蛍ちゃん可愛いね~、さすが俺のハニー」


「誰が誰の何ですか」


やたらワタシの仮装を褒めてくる松岡先輩。

だけど、女なら誰でもいいこの人の言葉なんて、信用するだけ無駄。


なんて……。

こんな風に考える可愛気のない自分が本当に嫌になる。

どうして「ありがとうございます」って可愛く言えないのかな……。

ツンデレ……なんて言えば聞こえはいいけど、正直ただの天の邪鬼。

わかっているんだけど、どうしても素直にはなれない。


「蛍ちゃんの仮装が見れるなんてハロウィン最高だね~」


「……他の女の子のは見たくないんですか??」


「もちろん見たいけど~」


ほらね、やっぱり。

松岡先輩はワタシじゃなくてもいいの。

ただここにワタシがいただけ。

この人のこういうところを見ると、素直に「ありがとうございます」なんて言いたくなくなる。