「ねえ、さっきの答えまだ聞いてなかったよね」


一体どうすれば……。

そう悩んでいたとき、頭上から先輩の声が聞こえた。


「さっき??」


果たして何のことなんでしょうか。

全く理解できない私は顔を上げて先輩へそう返す。


「天使じゃなくて悪魔の仮装をしている理由」


「っ!!」


そういえばさっきはぐらかしたんだった。

諦めてくれたと思っていたのに、長坂先輩は私の答えを聞くまで諦めようとしていないみたい。


「だからそのっ……これはっ……」


悪魔の仮装を選んだ理由なんて、恥ずかしくて言えるわけがない……。

どんどん熱くなってくる頬に手を当てて、何とか熱を逃がそうと試みる。


「俺に秘密……なんて、できる??」


「っ!!?」


腰を折って屈み、私の顔を覗き込んできた。

その行動に、私は驚きのあまり固まってしまった。


「言ってくれるまで待つよ……っていうか、逃がさないからね」


イタズラっぽく笑うその表情が、私の顔のすぐ近くにあって、頬の熱が余計に高くなっていく。


「わかり……ました……」


これ以上長坂先輩の顔が近くにあるということに耐えられなくて、ついそう言ってしまった。


「大した理由じゃないんです……」


「うん」


「長坂先輩が……」


「俺が??」


途切れ途切れになる私の言葉。

だけど先輩は答えを知りたくて、ちゃんとそれを聞いてくれている。

だから私も、途切れ途切れでも勇気を出してちゃんと言うことにした。


「長坂先輩が……黒が……似合うから……です」


「えっ??」


「長坂先輩の……近くでいるなら……黒が……合うかなって……」


「……何それ」


スッと離れた顔。

最悪、絶対呆れられた……。


「瑠美ちゃん……」


名前を呼ばれ、恐る恐る、顔を上げる。


「えっ……」


不安をよそにそこにいたのは、さっきまでのイタズラっぽい顔でも、呆れられたような顔でもなくて……。


「そういうの……ズルいよ」


耳を赤くして目線を逸らす長坂先輩。


「あの……」


「あーあ……お菓子あげたのにイタズラされた……」


しゃがみこんで顔を腕で隠してしまった先輩に、私はどうしたらいいのかと焦るばかり。

「ハロウィン……割と楽しい……のかもね……」


そう小さく呟かれた独り言は私には届かなかった。




臥龍先輩、調査報告です。

やる気ゼロファントムにワクワクという仮面を付けたつもりはありませんでしたが、なぜかどことなくワクワクした感じでした。

だけど、ワクワクしたイタズラっぽい笑顔と片目しか見えていないというのは、私がドキドキしっぱなしでミッションどころか会話も上手くいかなかったので、どうか止めていただきたいです。