「太陽……落ち着け……いつものことだ……」


それは俺への言葉。

自分を落ち着かせるための。


「違うっ!!違うっ!!違うんだっ!!」


太陽は大きな声でそれを否定する。
いつもはそんなことしないし、連れて行かれることなんて、もう慣れているはずなのに。



ナニカガオカシイ。



「太陽、どういうことだ??……」


ドクドクと早まる鼓動。

声は震え、上手くしゃべれない。


「もうっ」


落ち着け……。

落ち着け自分。


「もう二度と会えないっ!!」


「……えっ??」


だけど、その言葉は俺の僅かな落ち着きさえも奪い取った。


「つむのためにって!!俺達の傍に居させられないって!!」


そんなの勝手すぎる!!


「斎綺さんはっ!?斎綺さんは何てっ」


「父ちゃんっ……泣いてるっ」


そう言った太陽の後ろで叫び泣く声が聞こえる。


柚ちゃんごめんごめんごめん!!
もっとしっかりしてたら!!
もっと守ってあげられたら!!


そう聞こえる声は斎綺さんのもの。
柚紀さんが死んだ時と同じ。


「岡本先輩??そろそろ2試合目始まります」


「っ!!」


「先輩??……どうかしたんですか??……」


俺を呼びに来た伊吹。
だけど目の前で青ざめた表情をする俺に、伊吹は目を見開いた。


「太陽……あとでまた……」


「えっ??兄ちゃんっ!?兄ちゃっ」


電話を切り、俺は携帯を鞄の中へ投げ入れた。


「よぉーーっし!!次もやるぜ!!」


今すぐにでも向かいたい。
だけど俺の家の事情で試合に穴を空ける訳にはいかない。

それに……。

それに、俺が行ったところで何かが変わるのか??

何も出来ない俺が行ったところで……。


無理やり頭を切り替えて試合に臨んだ。
だけど手足は動かず、息はすぐに上がる。


「玲斗っどうしたの??」


ハーフタイムのホイッスルが鳴ってすぐにナルが駆け寄ってきた。


「レイ急に動き悪くなってる」


観覧席からは瀬那が心配したような声でそう言った。


「休憩中に何かあったの??」


「玲斗、顔青ざめてる」


同じように、観覧席から俺に語りかけるりょーすけとカナ。

だけどそれ達全部を無視して、俺はコートへ戻った。

何も出来ないまま、2試合目は負けて終了。


「岡本先輩、さっきの電話で何があったんですか??」


「何もねーよ」


ドリンクを伊吹から受け取ると、真面目な顔でそう言ってきた。
だけど俺は背中を向けて早々にそこから立ち去ろうとした。


「っ!?」


しかし伊吹はそれを許さず、無理やり俺の手を引っ張って誰もいないコートの隅へ連れてきた。


「ちゃんと言ってください!そんな顔してるのに何もない訳ありません!!」


強い眼差し。

俺はゆっくりと口を開き、さっきの電話の内容を話した。


「どうして言ってくれなかったんですか!?そんなの今すぐに帰らなきゃっ」


「帰ったって意味ねーんだよ!!」


つい声を荒げてしまった。


「帰ったって俺に何が出来んだよ!?無力な俺に何がっ!?紬を連れて行かれた時に何も出来なかった俺がっ!!今更何が出来んだよ!?」


伊吹にこんなこと言っても仕方がないとわかってる。
なのにどうしても止まらなかった。


暫くして、伊吹は顔を下に向けたまま走って行ってしまった。


「何やってんだ俺……」


自己嫌悪。
嫌気がさす。
何で俺は何も出来ないのだろう。